You Make Me Feel/Don Bryant (Fat Possum Records CDSOL-5483)
半年ぶりに都心に出て、半年ぶりにレコード屋巡りした。新宿も渋谷もタワーレコードのブルーズコーナーは増々小さくなって瀕死の状態になりつつある。時代によって音楽の流れは変るからそれも致し方ないか・・とも思うが、音楽は文化でもあるからブルーズのようなルーツ・ミュージックはいつもある程度は豊かな品揃えが必要ではないかと思う。それにしてもK-Popでワン・フロアというのが自分には理解しがたい。
閑散とした洋楽フロアでブルーズ〜ソウル〜ジャズ〜ロックと見て帰ろうとした時に「あっ、オレ、取り置きのレコードを買いに来たのんだ」と気づいた。自粛で家にいる時にいろいろポチってネットで買うくせがついていて、時々何をポチったのか忘れてしまう。
取り置きを頼んだのがこのドン・ブライアントの新譜。
"You Make Me Feel"
1曲目が始まり最初の歌声を聞いて「Ok!大丈夫、バリバリやん」と78才の力強い歌唱にまず安堵。歌の体幹が実にしっかり安定している。そして、彼の実直な歌い方にまず「ああ、サザン・ソウル」と胸が熱くなる。シャウトからファルセットまで喉がまったく衰えていないどころか歌の表現がまた深くなったように思える。
1曲目は新曲の"Your Love Is To Blame"。いまも曲を作る意欲が彼にはあり、それを最初に持ってくる誇りと気力に頭が下がる。ドンは今更説明することもなく、60年代からメンフィス・ソウルの優れたソングライターとして高く評価されている。奥さんのアン・ピープルズに書いたヒット曲、"I Can't Stand The Rain"はソウル・ミュージック史に残る名曲だ。その奥さんに書いた"99 Pounds"が2曲目に歌われている。他にも70年代にオーティス・クレイに書いた"I Die A Little Each Day"、60年代自らが歌い今回少しアレンジを変えて歌った"Don't Turn Your Back On Me" など自作の名曲への熱のある歌もいい。
そして、新作で良かったのはバラード"A Woman's Touch"だ。「何も育たない庭のように、家庭ではない家のように私は感じる。メロディのない歌のように、いつもひとりでいる男のように感じる。私に必要なものそれは女性のふれあいだ」僕はこの歌を聞いた時にひとりでいる中高年の男を思い描いた。死別したのか離婚したのか、理由はわからないが年老いてひとり暮らす男には燃えるような恋ではなくそっと手に触れてくれるような柔らかい愛が必要なのだ。静かにでも心のこもったふれあいが・・。
奥さんのアン・ピーブルズは素晴らしい歌手でチャーミングな女性で人気もすごくあった。70年代メンフィス・ソウルのクイーンだった。いまは病で彼女はリタイアしてしまい、もうステージを見ることもできないし、アルバムもリリースされない。アンが人気ソウル・シンガーとして活躍していた時は裏方のように彼女のうしろでサポートしていた。もちろん彼女のために曲も書いていた。
ドンはソウル・シンガーとしては大きな華を咲かせた人ではなかったが、いい時も悪い時もずっと彼女に寄り添って生きてきた。そして、こうして長いアンとの人生の中で生まれて来る愛の歌をいまも僕たちに届けてくれている。
そして、今回のこのアルバムを後ろで支えているドラムのハワード・グライムス、オルガンのチャールズ・ホッジズ、キーボードのアーチー・ターナー・・とかってのメンフィス・サウンドの要たちが元気でいまも演奏していることが何より嬉しい。
コロナが収まったらもう一度彼らと一緒に来日して欲しい、ドン・ブライアント。