再び読みながら何度も胸が塞がれる思いがした。
小説だが、著者リチャード・ライトの少年期の自伝に近いもので、アメリカ南部に黒人として生まれた著者が貧困と激しい人種差別の中で苦悩し葛藤し衝突し、日銭を稼ぎながら学び、やがて文学に自分の解放をみつけ北部へ旅立つまでを描いたもの。
少し前に白人女性の立場から南部の人種差別について書かれた"HELP"を取り上げたが、やはりというか当然だが、黒人の側から書かれた本書は遥かに重苦しく悲しい。
それにしても白人がもっている人種の優位感覚というのはいったい何なんだろう。
根拠なきその感覚が本当にわからない。ここまで、自分と違う人種を差別し蔑視し痛めつける白人の心の根にあるものが何なのか知りたい。(もちろん、すべての白人がそうだと言っているわけではない)
白人が黒人をまるで犬のように、動物のようにしか思っていない場面がいくつもあるのだが、それは狂気でありまるで白い悪魔だ。
その強烈な差別の中でプライドをなくし白人に卑屈になっていく大人を見て、歪んでいく主人公の黒人少年の心。宗教(教会)に逃げて死後の世界に幸せがあるとする親戚や友人に、生きているうちに幸せがなくてなにがキリストだと反発する彼。
共感すると同時にそこからの脱出への方法がなかなか見えないストーリーに読んでいて気持ちが重くなる。
食べるもの、着るもの・・・生活のすべてがあまりに貧しく、ひとつの光も見えないような毎日の中で次第に自分の道を見つけ出し、志をもって生きて行くこの主人公の強靭さに胸が打たれる。
最後にこう書かれている「人生は屈辱をなめずに生きられるはずのものであり、他人の人格はおかすべからざるものであり、人間は他人に面と向かっても恐怖や羞恥を感じる必要がなく、もしも地上の生活で幸運に恵まれたならば、この星の下でなめてきたあがきと苦しみをつぐなってくれる何らかの意味をかちとることができるかも知れないのだ・・・・・」
北部に向かっていく主人公の最後の言葉だ。
信じられない劣悪な環境で生きてきた黒人少年が、これからの不安の中それでもこういう気持ちを持って歩いていくその強さがとても美しい。
ブルーズはじめソウル、ジャズ、ファンクなど素晴らしい黒人音楽が生まれてきた後ろで、たくさんのこういう理不尽な、悲惨な差別と貧困が続いてきたことを知っておいてもいいと思う。
他にもたくさん素晴らしいアメリカ黒人文学があるので、またここに書いてみたい。