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記事一覧

2010年〜2011年/旧年から新年に思うこと

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1.blues.the-butcher-590213初DVD"BLUES AFTER HOURS"のリリース
2010年末になってブルーズ・ザ・ブッチャーの初DVDリリースとなった。撮影と編集をしていただいた山田秀人さんと菅原一剛さん、そしてジャケットを作ってくれた木菱くんほかスタッフのみなさんには心から感謝を申し上げます。ありがとうございました。ブルーズ・ザ・ブッチャーが行っている様々なライヴの核心を見事に捉えた映像になったと思います。 普段、自分の映像をあまり見ない(見たくない?)私が何度も見ているのは映像が魅力的で飽きさせないからだと思います。
このDVDを見ていただくとわかるように私たちbtbは様々な場所で演奏しています。広いフェスティバルやコンサート会場から狭いライヴハウス。お客さんが多いときもあれば少ないときもあり、機材が不十分な時もあれば、音響状態がよくない時もあります。でも、どんな時でもどこでやっても私たちの音楽に向かう、ブルーズを演奏する姿勢はひとつです。これからもただひたすらそのひとつを続けていくだけです。今年もblues.the-butcher-590213をよろしくお願いします。

2.「ブルースハーモニカの扉」のリリース
私がブルーズを長年やっている目的のひとつに、ブルーズという音楽をたくさんの人たちに知ってもらいたいということがあります。
しかし、流行りすたれの激しい音楽の世界でブルーズの素晴らしさを知ってもらう難しさもよくわかっています。その事に関して過去に落胆したことは一度や二度ではありません。
今回、鈴木楽器さんの依頼でKOTEZくんとデュオでハーモニカ付きCDの「ブルースハーモニカの扉」を製作したものブルーズを知ってもらえるきっかけになればと思ってのことでした。価格もハーモニカがついての3500円とリーズナブルです。初めから上手くは吹けないけれどハーモニカはとにかくすぐ音が出ます。その音を少しづつ積み重ねながら、そして楽しみながらハーモニカを吹いてください。そして、次はたくさんの人たちが「ブルースハーモニカの扉」から「ブルーズの扉」を開けてくださることを願っています。ちなみに「ブルースハーモニカの扉」は教則ものではありません。ブルースのハーモニカを吹く楽しさを伝えるためのものです。最初は"Sweet Home Chicago"から始めるとよいと思います。

3.ソロモン・バーク
昨春の来日公演を見逃した人たちは一生の不覚でした。
2010年5月30日ソロモンと同じ野音のステージに立てたことは、ミュージシャンとして本当に光栄で一生の想い出となりました。
しかし、コンサートが終わってみんなで「ソロモン!ソロモン!」とコールして彼を見送ったその4ヶ月後に急逝するとは・・・・。
もう、あのソウルフルで暖かい歌声を生で聴くことはできません。
ライヴに行こうかどうかと迷うときに、「また、来るだろう」「また、観れるだろう」「また、聴けるだろう」なんていう考えは止めた方がいいです。
本当に行きたければ強引に時間を作って、借金してでもライヴには行くべきです。
同じ音楽は二度とは聴けません。
そして、その時その場所で生で聴いた音楽の感動は何年か、何十年か経っても何度も自分の胸に甦り、心を豊かにさせてくれます。

4.ボブ・ディランのコンサート
うちのレコード棚にはまだ「ボブ・ディラン・チロルチョコ」が食べられないまま飾ってある。たぶんずっと食べないと思う。
コンサート前はいままでディランが作ってきた素晴らしい曲がたくさんあり過ぎて「あれも聴きたい」「これも聴きたい」と欲張っていたのだが、コンサートが始まると「バンドをやっている」ディランがかっこよくてそんなことどうでもよくなってしまった。
いままでも何度かディランのコンサートには行ったが、今回がいちばん良かった。誰がうまいとか何がいいかとか、フォークだとか、ブルーズだとか、ロックだとかいう単位の問題ではなくバンドがグルーヴし、それに誘われ会場が大きく揺れていくあの気持ちの良さには正直参った。
存在そのものが偉大なミュージシャンですが、ディラン本人がバンドの一員となっていることが更に偉大でした。

5.キャロル・キングとジェイムズ・テイラーのコンサート
年を重ねて音楽をやりつづけていく美しい姿をふたりに見せてもらいました。武道館であんなにいい音だったのは初めての気がする。JTが絶妙のアルペジオでギターを弾き始めてから最後の1曲までまるでどこかのクラブにいるような気分でした。ロスのトルバドーレで聴きたかった・・・・ワイン飲みながら。
キャロル・キングとジェイムズ・テイラー、そしてバンドとのすべての音と歌がひとつになった豊かな、美しい音楽でした。

6.メイヴィス・ステイプルの新譜"You Are Not Alone"
年々心からいいと思える新譜が少なくなり、中古盤屋でいにしえの名盤を探す昨今です。
たぶん、メイヴィスの新譜"You Are Not Alone"はこの日本では大きなポピュラリティを得ることはないだろうと思いますが、静かにゆっくりと心に沁みていつか名盤と呼ばれるものになると思います。
ここ数年のメイヴィスのアルバムは本当に心打たれるものばかりです。
タイトル曲の「あなたはひとりぼっちじゃないのよ」と語りかけてくる"You Are Not Alone"のような歌はメイヴィスのように誠実な歌手でなければ心には届きません。

7.ボビー・チャールズの死
大好きなミュージシャン、ソング・ライターだったボビー・チャールズが亡くなったのは2010年の1月だった。
ライヴをほとんどしなかった人なので彼の生の歌を聴いた人はあまりいないのではないだろうか。
私も聴けずに終わってしまった。
私の回りには女性よりも男性にボビー・チャールズ好きが多い。
孤独、嫉妬、ささやかな幸せ、ロマンス・・・・彼は男の心の呟きを朴訥に歌い続けた人でした。
たくさんアルバムがある人ではないけれど、どのアルバムにも素晴らしい曲が入っている。とくにベアーズヴィルで作った72年のアルバム"Bobby Charles"は永遠に聴かれる1枚です。

8.渥美清〜司馬遼太郎〜茨木のり子
「風天 渥美清のうた」(森 英介著)には私の大好きな寅さんこと渥美清さんが生前に残した俳句が解説入りで満載されている。渥美さんの俳号は「風天」。映画の寅さん同様に心優しい句がいっぱいあり、いまも時々読んでいる。その中の好きな一句「赤とんぼ じっとしたまま 明日どうする」・・・・ブルーズの歌詞のようだ。
テレビの大河ドラマ「竜馬伝」は一回も観る気がしなかった。しかし、そのドラマのおかげで書店には司馬遼太郎さんの著作がたくさん平積みになっていて司馬さんの作品を読むきっかけとなった。「竜馬がゆく」を手始めに読んだが次の展開が待ち遠しい気持ちで次々に号を重ねて完読した。
「茨木のり子集 言の葉 1」には詩人の茨木のり子さんの詩とエッセイなどが集録されている。茨木さんの名前だけは以前から知っていたが読んだのは初めて。この本には茨木さんの素晴らしい詩と彼女と交流のあった多くの詩人、文学者のことが書かれている。知らない人たちのことをこの本でまた知りたくなってしまった。
ほかにも、我blues.the-butcher-590213のアルバムを製作してくれているP-Vine Records/ブルース・インターアクションズの創始者、日暮泰文さん著の「のめりこみ音楽起業」も興味深く読ませていただいた。ミュージシャンも、レコード会社の人間も、まず「自分の信じる音楽にすべてを賭ける」気持ちがなければならないのだが、いまそういう気持ちを持っている人があまりいなくなったと感じる。

9.弘前BLUES'Nの閉店
弘前のFMアップルウェーブで番組が始まってから2ヶ月に一度ほど収録のために弘前に出向いている。行くたびに楽しみにしていたのは「BLUES'N」を訪れてマスターの正井さんとブルーズを聴きながら話をすることだった。それが昨年12月にBLUES'Nが閉店してしまった。
正井さんは閉店を私に告げたあと「これで終わりというわけではないので・・」と微笑まれたが、「弘前に来てもブルーズを聴ける店がないじゃないですか」と私は抗議した。確かにひとつの終わりはひとつの始まりだが、あの「BLUES'N」の空間やムードに浸ることができないのは残念だ。いや、私より「BLUES'N」の常連さんたちはどうするのだろう。あそこで心休まる時間を持っていた人たちはどこへ行くのだろう。
どこに行っても私のような者が落ち着ける店はどんどん少なくなっている。ありきたりのチェーン店のカフェではなく、私はBLUES'Nのような好きな音楽が流れる店でその店でしか味わえないムードの中でコーヒーを飲み、酒を飲みたい。
私はそういう店で音楽を教えてもらったと思っている。

10.たくさんの旅、たくさんのライヴ、たくさんの人たち
昨年も本当にたくさんの街へ行き、たくさんの人たちに会い、たくさん演奏しました。
体が大丈夫な限りこのままライヴも旅も続けるつもりです。
いろんな意味で自分でも嫌になるくらい不器用な自分なので進み具合が遅いのですが、ゆっくりおつきあいください。
私自身はいつも多くを望まずささやかな喜びがあれば充分な人間です。
今年もたくさんの旅に出て、たくさんのライヴをやって、たくさんの人たちに会いに行きます!

最後に前にも書いたかも知れませんが、私が好きな松尾芭蕉の言葉です。「あまりいろんなことに心を惑わされず、ひとつのことをやり続けていれば、無能無才の自分でも最後にはひとつの道をつくることができる」というような意味だと思います。
『萬のことを心に入れず 終に無能無才にして 此の一筋につながる』