これから少しづつですが、時間を見つけて私が個人的に推奨するアルバムをブルーズ中心に紹介していきたい。今回は押しも押されもしないブルーズの王道の1枚。
Muddy Waters/The Best Of Muddy Waters(MCA UICY-3199)
Chess原盤(Photograph参照)
マディ・ウォーターズは黒人ブルーズを知り始めた70年代初期、最初に聴いたブルーズマンのひとりでこのアルバムからはたくさんの影響を受けた。マディの強烈な歌唱だけでなく彼のバンドが作り上げた「エレクトリック・シカゴ・ブルーズ」というサウンドとビートから受けた影響も大きかった。それは当時私達が結成したばかりの「ウエストロード・ブルーズバンド」の初期の音作りの大きな土台ともなった。特にどっしりしたアフター・ビートのグルーヴの研究は、真面目なベースの小堀(正)とドラムの照夫(松本)を中心にかなり徹底的にやった。ふたつのギターの絡み方や、音色をはじめとするバンド・サウンドの作り方にもマディのブルーズから教えられるところが多かった。当時はブルースのレコードも少なかったが、教則本もビデオもなく、周りに黒人ブルーズのことなど教えてくれる人もいなかった。ちなみにギターのチューニング・メーターさえなく、チューニングは音叉かピアノかハーモニカで耳を頼りにやっていた。教則本や教則ビデオがあればもっと早くひとりひとりが音楽的に上に行けたかも知れないが、逆に資料が少ないということが自分の力でブルーズの本質を探ろうという気持ちを強くしたのではないかと今になって思う。それは今もメンバー個々が音楽と取り組む際の精神的な力に役立っているはずだ。
歌に関しては、それまでロックを歌っていた私にとってマディの歌は最初からすぐに馴染めるものではなかった。しかし、なんとなく毎日聴いているうちに、ロックにはない独特な歌の存在感を感じ始め気がつくと虜になっていたという感じだ。後になってはっきりわかることなのだが、歌の上手い下手ではなく、存在感なくしていいブルーズはない。まあ、マディは存在感もあり歌も上手いが。そして、ここから他の偉大なシカゴ・ブルーズマンたち、ハウリン・ウルフ、サニーボーイ、リトル・ウォルター、ジミー・ロジャースなどのアルバムを聴く旅が始まり、それはいまでも終っていない。何故ならいまでも聴いている最中に何かを発見することがあるからだ。マディ・ウォーターズのこのアルバムは、いまだ終らない私のブルーズの旅の最初のナビゲーターだった。どれくらいこのアルバムが好きかと言えば、私はこのアルバムをアナログ盤で2枚、CDで2枚計4枚もっている。しかし、アナログの1枚は聴き過ぎてノイズがひどくていまは飾りものになっている。そして、このアルバムの"Louisiana
Blues"と"Still A Fool"を除く曲はすべて練習し、いまでも8曲はすぐ歌うことができる。私とってマディはやはり父であり、このアルバムはブルーズの教科書のひとつだ。感謝しきれないほどの1枚。
これは50年代の終りにチェス・レコードがリリースしたものだが、最初ジャケットを見た時「この顔のテカり具合はなんだ?」と思った。たぶん誰もがそう思うはずだ。後から知ったことだが、このテカりはわざとそうしたらしい。この「テカり顔」は性的な歌詞がひとつの「売り」であったマディを象徴しているものなのだそうだ。性に関しての認識が黒人とはかなり違う日本人にはちょっと理解しにくいジャケットだが、脂ぎった顔で性的に強い男であることをアピールしているという。分かりますか?日本の女性の方々。まあ、ブルーズの海に飛び込めばすぐに笑って理解できます。収録されている"Hoochie
Coochie Man"を、私が以前「精力絶倫男」とライナーに書いたところレコード会社の担当者から「ほんとにこれでいいのですか?」と問い合せがあった。私は迷うことなく「これでいいのだ・・・」とバカボンのパパのように答えた。
ベ−シストでマディのプロデュースも担当していたウィリー・ディクソンのベース、ジミー・ロジャースのギター、リトル・ウォルターやウォルター・ホートンのブルーズ・ハープ、オーティス・スパンのピアノなど、個々も優れたブルーズマンとして高い評価を受けた人たちがそれぞれの個性を出しつつも、バンド・サウンドの形成に向っている素晴らしいのブルーズ・アルバムです。現在日本盤で出ているものには別テイクも含め6曲も追加テイクが入ってお得です。 |