MY NOTES > My Feeling For The Blues > No.25




Blues 100撰-その2「Lowell Fulson/Tramp」
(PCD-3006 Pヴァイン・レコーズ)


初めてこのアルバムを手にした方のほとんどは、このジャケ写は一体何だ?(Phtograph参照)と思われるだろう。町外れの列車の操車場だろうか?やや殺伐としたロケーションの線路と線路の間でドレスアップしたロングドレスと普段着っぽいミニ・スカートのふたりのお嬢さんに挟まれ、にんまり笑うサングラスの小汚いファッションのおっさん。ふたりのお嬢さんはなかなかにチャーミングだ。でも、このおっさんのファッションはなんだ?ヒントはアルバム・タイトルの"Tramp"だ。「トランプ」と言ってもカードのトランプではない。カードの方はスペルが"Trump"。
この"Tramp"は浮浪者という意味で、それでこのおっさん、ロウエル・フルソンはこんな格好をしているわけだ。まあ、日本ではお笑いの芸人のジャケットならあるかも知れないが、ミュージシャンのアルバムにこのような発想する人は音楽業界にはいないと思う。白人の発想でもないと思う。黒人ならではのセンスだ。いわゆるファンキーというものだ。ファンキーは日本語では「陽気な」とか「おもろい」と思われているが、それだけではない。ファンキー(Funky)とは辞書をひくと元々(Funk)から来ている言葉で、(Funk)には「おびえる」とか「こわいと思う」という意味と「悪臭」という意味があると載っている。更に(Funky)を調べると、やはり「いやな臭い」という意味と、まったく反対の肯定的な「素晴らしい」「セクシーな」という意味がある。しかし「いやな臭い」がどうして「素晴らしい」につながるのかという疑問があり、この「素晴らしい」は(Wonderful)とどう違うねん?という疑問も出る。いつも思うのだが、音楽とくに黒人音楽を語る時によく使われるこの(Funk,Funky)はとても日本語に訳しにくいことばだ。これは黒人音楽がもつ固有の「音楽的匂い」で、この匂いは黒人たちの生活全体から生まれてくる匂いが音と化したものだと、私は私流拡大妄想解釈している。ここで「音楽に匂いなんかあるのか?」と思われる方もいると思うが、演歌の中に日本的な酒場の匂いや、港の潮の匂い、都会の雑踏に漂う匂いなどがあるように、黒人音楽には黒人の生活すべての匂いがある。そこには必ずしもいい匂いばかりでなく、嫌な匂いも含まれている。
しかし、それが自分たちの匂いなのだと肯定した言葉がファンキーではないだろうか?もうひとつ妄想するなら、最初白人が黒人に対して差別的に「いやな臭い」と意味で投げ掛けていた言葉を、黒人たちは逆手にとってこれが私たちの匂い、私達の生活の、私達が生きている匂いなのだとポジティヴに使ったのではないだろうか?そして、そこからより肯定的に「素晴らしい」とか「セクシー」という意味も加わったのではないだろうか?ファンキーの言葉ひとつでえらく長くなってしまって、すんまへん。
さて、このアルバムには60年代中ごろの黒人たちのファンクがぎゅうぎゅうに詰まっている。まず、最初のタイトル曲"Tramp"のファンキーさは当時の黒人音楽としては時代の先端だったのだろう、66年R&Bチャートの5位まで上がっている。しかし、その後90年代に入ってからなんとヒップホップのサンプリング(ミュージシャンの名前を忘れてしまった)にこの曲は使われたのだ。つまり、20年以上も過ぎた時代の若い黒人ミュージシャンがやはりこの曲に匂い、ファンキーさを感じたのだ。つまり、この曲には決して消えることのない黒人たちの匂いがパッキングされているということ。考えてみると、この曲は歌の半分は語り、つまりラップなのだ。まあ、現在のラップのように忙しいものではなく、のんびりとしたものだが・・。しかし、笑えるのはこの曲がヒットしたので「柳の下にどじょうが2匹」を狙ったのだろう、最後の"Pico"という曲は"Tramp"のリフ、リズムをそのまま使ったインストの曲だ。"Tramp"の別ヴァージョンだと思った私の知人は最後までこの曲を聴いていて最後に言った-「サギやなぁ」と。私は言った-「サギではない、ファンキーだ」と。
そして、このロウエル・フルソンのブルーズの大きな特徴のひとつが、ミディアム・テンポのシャッフル・ブルーズだ。この遅くもなく、早くもないビートが演奏してみるとほんとに難しい。でも、キマると気持ちいい。フルソンのギターは決して流暢なものではなく、ちょっとつっかかるような、時には朴訥とも言えるものだし、歌声はもっこりしている。でも、音域は意外と広く、歌も上手い。そして、独特のメロディ感で作られたその歌の、特に下降していく時のメロディは歌うのがかなり難しい。レイ・チャールズが一時、彼のツアー・バンドに入っていたくらいだから、当然レコーディング・メンバーも一流の連中なのだろう実に素晴らしい。もうひとつ素晴らしいのはホーン・セクションのアレンジが気が利いていて、しかもゴージャスだ。とにかく噛めば噛むほど味の出てくる塩昆布のように、聴けば聴くほど深い味わいがある昆布詰め合せのようなアルバムだ。是非、御中元、お歳暮に利用していただきたい。
ちなみに私が初めてウエストロード・ブル−ズバンドでスタジオ・レコーディングした曲がこの"Tramp"という曲だった。1974年12月、目黒のモーリ・スタジオで、それはウエストの1st.アルバムの1曲目となった。忘れられない曲であり、忘れられないアルバムだ。
もうひとつこのロウエル・フルソンの素晴らしいアルバムが"SOUL"というやつだ。中身も"Tramp"と同様に素晴らしいが、ジャケットも劣らず素晴らしいので是非見ていただきたい(Photograph参照)。この8:2分けの、ポマード(?)でぺったりとなでつけたヘア−・スタイルとそのギターをもったポーズ、ファッション、そして顔そのものが誰を思い出させる・・う〜ん誰でしょう。それは「なみだの操」の大ヒットを出した演歌グループ「殿さまキングス」のリード・ヴォーカル、宮路オサム氏である。「似てねぇ〜」という人もいるかも知れないが、アルバムのコンセプトはほぼ演歌のそれと一致している。この恐ろしい符合・・・。ということは、ロウエル・フルソンが「なみだの操」を歌い出しても別に不思議ではないかも知れない・・ならば、宮路オサムが「Tramp」を歌っても・・・いゃあそりゃないやろ。しかし、何度見ても笑える私を幸せにしてくれるアルバム・ジャケットだ。そして、中身を聴けばもっと幸せになれる。そして、昔、私がアナログで買ったこのふたつのアルバムがいま2in1、つまり1枚となってCDでリリースされているという幸せ!このファンキー・ブルーズマン、ロウエル・フルソン!絶対にお薦めです。
また、このおっさんのことをもっと知りたいという方は4枚組「ザ・コンプリート・ケント・レコーディングス 」( PCD-3066 Pヴァイン・レコーズ) をゲットするしかない。フルソンが絶好調だった60年代ケント・レコード時代の集大成だ。


[←back] [next→]
Page Top

| WHAT'S NEW | PROFILE | SCHEDULE | MUSIC/DISCOGRAPHY |
| BOOK | PHOTOGRAPH | MY NOTES |
| blues.the-butcher-590213 (The Blues Power) | LINK | GUESTBOOK |
Copyright © hotoke-blues.com. All Rights Reserved.
Mail to a site administrator: info@hotoke-blues.com
Mail to HOTOKE: hotoke@hotoke-blues.com
すべてのメールに返信できない場合があります。ご容赦ください。
  Powered by FUJI P.I.T.