ブルーズにとってギターという楽器が大きな役割をもっていることは、ギタリスト/ブルーズマンが多いことでもわかると思う。しかし、ブルーズマンの中にはピアノを弾いて歌う人、ハープ(ハーモニカ)を吹いて歌う人、サックスを吹いて歌う人、マンドリンを弾いて歌う人などいろんな楽器を演奏する人がいる。中にはひとりでギターとハープそして足でドラムのバスドラとハイハットを踏みながら歌う「ワンマン・バンド・スタイル」のジョー・ヒル・ルイス、ドクター・ロスといった人たちもいる。そして、ボビー・ブランドのように歌だけの人もいる。このジュニア・パーカーもハープを吹くが、どちらかと言えば優れたブルーズ・ヴォーカリストとしてブランドと並んで評価されている。しかし、何故か日本ではギターを弾くブルーズマン以外はあまり人気がなく、ブランドやパーカーの素晴らしさを語る人は少ない。漆黒のブルーズを歌うブランドの来日ライヴに集まった聴衆の少なさに悲しくなり「ブルーズはギター弾けばいいのかよ!」と、私は飲んで愚痴ったこともある。私もギターを弾くしギターが大好きだが、そもそもブルーズはギター・ミュージックではなく、「ヴォーカル・ミュ−ジック」だ。オーティス・スパン、リロイ・カー、ルーズヴェルト・サイクスなどピアノを弾きながら歌われるブルーズもたくさんあるし、サックスのクリーンヘッド・ヴィンソンもハープのサニーボーイやリトル・ウォルター、ジュニア・ウエルズなどのブルーズも素晴らしい。しかし、今回紹介するジュニア・パーカーの極上のブルーズを知らずしてブルーズを知っているとは言わせない。ストロングで、しかもスムーズでゆったりとした歌唱。よく伸びる、ベルヴェットのような柔らかい声質。アップ・テンポもミディアムも、バラードも、何を歌っても説得力のある歌。このパーカーを私はブルーズ界のサム・クックと呼んでいる。歌唱のテクニックとしてはかなり難しいことを彼はやっているが、それを感じさせないなめらかな歌なので自分でも歌えるかな・・と思ってやってみるとこれがなかなか手強い。彼の歌のカヴァ−は本当に難しい。しかも、上手いだけでなくソウルフルだ。
1927年、アーカンサス州のウエスト・メンフィス出身のジュニア・パーカーの最初のヒットは、52年にメンフィスの「サン・レコード」(ここはかのエルビス・プレスリーが最初にレコーディングした会社でもある)からリリースされた"Mystery
Train"だった。これはプレスリーもカヴァーしている。「いつもの黒い列車がオレの彼女を乗せて行ってしまった・・」というロスト・ラヴを歌ったこのブルーズは、サックスが汽笛の音を真似て吹きリズム・パターンも汽車が走っている感じを出しているが、この汽車の速度は早くはない。どこかのんびりとしている。いわゆるアメリカ南部の田舎臭さのある、ゆったりとした「ダウンホーム」なビートだ。パーカー自身はもっと都会的なサウンドやビートの音づくりを望んだが、このサン・レコード社長、サム・フィリップスがダウンホーム・ブルーズを好きだっためにこういうサウンドになったという話が残っている。同時期にリリースされたジョン・リー・フッカーのブギ・パターンを使ったアップ・テンポのダンス・ナンバー"Feeling
Good"(この曲は後にマジック・サムがカヴァーしているが、そのサムのヴァージョンも素晴らしい!)にもダウンホーム・フィーリングがあふれている。しかし、ともあれこれらの曲がヒットしパーカーはブルーズ・シンガーとして南部一帯で知られることになる。そして、54年にデューク・レコードに移籍して彼は強力なリズム隊と切れのいいホーン・セクションも含めて、念願の都会的なサウンドで録音することになり、増々本領発揮となる。その後12年間、彼はデューク・レコードで優れたモダン・ブルーズを次々と残すことになるのだが、その黄金期デューク・レコードでの歌唱が収録されているのがこのアルバム"Driving
Wheel"だ。そのアルバム・タイトル曲をはじめ、"I Need You So Bad","Next Time You
See Me","Annie Get YourYo-Yo"などはブルーズ・シンガーを志す者にとっては、本当に得るものがたくさんある見事な歌唱だ。デューク・レコードを離れた後、マーキュリー、ユナイテッド、キャピトル、グルーヴ・マーチャントと次々とレコード会社を移転した彼だが、どの時代のアルバムを聴いてもその歌の上手さには脱帽する。しかし、1971年に44才という若さで亡くなった。脳腫瘍だった。
ドラマーのジェイムズ・ギャドソンはじめ黒人ミュージシャンと話をしていて、私がブルーズを歌っているというと「おまえはジュニア・パーカーを知っているか?」と訊かれたことは1度や2度ではない。ブルーズを熟知している黒人ミュージシャンたちの間におけるジュニア・パーカーの歌に対する評価はすごく高い。絶賛する人もいる。是非、一度聴いてもらいたいブルーズマン、ジュニア・パーカーだ。さて、アルバム・ジャケット(Photograph参照)だが、場所は恐らく自宅前の庭だろう。家はなかなか瀟洒な建物だ。にっこりと微笑み乗り込もうとしている車はキャデラックだろう(車には詳しくないので・・)。この時代の黒人の三種の神器はキャデラック、ダイヤモンド、毛皮のコートだった。「この新車のキャデラックの前でやぁ、ジャケ写撮ったらかっこええんできるんとちゃうか。まあ、家も買ったばっかりやし・・どやろ?」と、パーカーが提案したとも想像できる。まあ、成功した男の自慢たっぷりのアルバム・ジャケットですね。はい。 |