B.B.キングが1964年、11月21日底冷えのするシカゴの街のリーガル劇場で残したライヴ・アルバム。文句なしのブルーズの名盤の1枚。3本のホーンズとピアノ、ベース、ドラムそしてB.B.のギターと歌という編成。ドラマーはもちろんブルーズ・ドラマーとして最強のソニー・フリーマン!
MCの"King Of The Blues! B!B!King!"の呼び出しから、すかさずストンプ・リズムによるアップテンポの"Everyday
I Have The Blues"が始まる。このイントロのワン・コーラスのスピード感だけですでに気持ちはグィッと高揚する。飛行機が離陸のための滑走を始めた感じだ。そして、2コーラス目から入ってくるB.B.のややこもり気味の温かいギターの音が気持ちよく、飛行機が離陸した瞬間の身体が持ち上がるふわっとした感じになる。その後2コーラス歌い、ギターソロになるがその時は最初より少し堅いトーンにしている。ギブソンのセミアコ・ギターを使いこなす名人、B.B.がすでにここにいる。あっと言う間に"Everyday..."が終ると間髪を容れずスロー・ブルーズの"Sweet
Little Angel"に突入だ。B.B.の大ヒット曲でもあり、歌い始めた途端に客席からの大きな反応がある。この反応の良さからも聴衆はほとんど黒人だとわかる。それにしても"I
Gotta Sweet Little Angel"と歌い出したときの女性客の「キャーッ!」という嬌声はどうだ!今年(2005年)公開された映画「ライトニン・イン・ア・ボトル」の中で、B.B.とソロモン・バークが楽屋で会うシーンで「昔、あんたは若い娘にB.B.!キャーッ!ってモテモテだったよなぁ」とバークが言っているが、それはこのアルバムを聴くとわかる。
実はこの曲からスローブルーズが立て続けに3曲!続く。2曲目は"It's My OwnFault"。これは私もカヴァーさせてもらっている。「自分に貢いでくれている女がおったのに、その女の金で他の女と遊んでたらその女が他に男を作ってしまいおった。お前が愛してくれている時にオレはお前を愛さへんかったんや・・オレはヘタこいたよ。」こういう歌詞に客の食いつきがよく、客席のざわつきで盛り上がっているのがわかる。続いて3曲目のスローへ行くが、ここはそのまま転調して連奏だ。
この転調のタイミングがどえらいかっこええでいかんわ(と、名古屋弁になってしまうほどかっこいい)。曲は元々はルイ・ジョーダンの"How Blue Can
You Get"。「おまえに新車のフォード買うたったら、おまえはワタシはキャデラックが欲しかったんよと言う。10ドルもするディナーを食べさせてやっても、おまえはあんなんスナックやんと言う。高級マンションに住まわせてやっても、おまえはあんなん掘っ立て小屋やんという。そして、お前には7人の子供をあげたやろと言うたら、あんた、そんなこと言うならその7人もう一度腹の中に返してくれ!という。ああ、まったくお前に会うてからずっとブルーや。ほんまオレらの愛はブルーズでしかないわ!」このインパクトのある、しかも笑える歌詞に客席は大いに湧く。しかもこの曲でのB.B.とドラムのソニー・フリーマンのグルーヴの一体化は神業だ。いつもここで私は頭の中が空白になるほどイッてしまう。歌のブレイクのコーラスでのフリーマンのスネアのロールの素晴らしさ!かっこ良さ!う〜ん男前!私が女性なら「ソニー、抱いて!」と言いたいところだ。そのロールだけで歌と演奏がぐ〜んと盛り上がっていく。ドラマーはこのソニー・フリーマンのかっこ良さが分からなかったらドラム辞めた方がいいと思う。そして、アナログ盤なら次のアップテンポの"Please
Love Me"でひと休みとなる。
2部もMCが入り、B.B.の人気曲アップの"You Upset Me Baby"から始まる。そして、次の"Worry Worry"では途中で男女の愛のつながりを話すB.B.だが、こういう「語り」もB.B.のスロー・ブルーズの特徴のひとつだ。流石、若き日にラジオのDJをやっていただけに喋りはうまい。このスロー・ブルーズでも客を引きつけてハイ・テンションにもっていくB.B.。そして、ラテン調のリズムからシャッフルへリズムが変るアップの"Woke
Up This Morning"を短めにやった後、再びスロー・ブルーズ"You Done Lost Your Good Thing Now"に入る。なんとこのアルバム全10曲中半分の5曲がスローからミディアム・スローのブルースだ。しかし、スローが多いからと言って「かったるい」感じはまったくない。うねるようなリズムのグルーヴ、B.B.のギターとバックの醸し出す緊張感とダイナミズム、そしてB.B.の歌唱の素晴らしさが常に聴く者を高みに引っ張っていくからだ。
B.B.には他にも名盤と呼ばれるアルバムがあり、50年代のケントというレーベルでのアルバムを推す人もいるが、私はB.B.のブルーズ・スタイルが完成したのはこの60年中頃だと思う。ギターやアンプの質の向上もB.B.のスムーズな演奏スタイルの形成にプラスになっただろうし、ソニー・フリーマンはじめ優秀なバック・メンバーが確定したこともこういう充実した演奏を生み出す大きな要因になったと思う。
このアルバムは私がブルーズを追い求め始めた頃、ターン・テーブルに盛んに載せた1枚であり音楽的に強い影響を受けた1枚だ。大袈裟ではなく、「音楽上の美学」というものを教えられたようなアルバムだ。(Photograph参照)
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