4月初めのある日、下北沢で仕事のミーティングがあった。それまで時間があったのでレコード店に入りメンフィス・スリムなど5枚買った。そして、レジで金を払い出口に向って歩いていた時、どこかで見た顔がジャケットになっているDVDが目に入った。それは大好きなエスター・フィリップスだった。そして、その上には"THE!!!!BEAT"の文字。「えっ?これってあのアメリカで60年代に放映されていた黒人音楽番組"THE!!!!BEAT"のDVDやん。もう出てるんやんか!」と喜んだのも束の間、その前にレコード5枚買っているのでさほど現金が残っていなかった。値段を見ると1巻が4000円近い。しかし、第1巻にはエスターはじめエタ・ジェイムズ、リトル・ミルトン、ジョー・テックス、ラティモア・ブラウンなどなど。第2巻にはフレディ・キング、ケリー・ブラザーズ、バーバラ・リンなどなど。第3巻にはルイ・ジョーダン、ジョニー・テイラー、ボビー・パウエルなどなど。しかも全部のバックバンドをやっているのがゲイトマウスのバンドだ。濃い、えぐい、見たい!でも、1から3巻まで買うと1万2000円近い額になる。う〜ん、第1巻だけ買うか・・・。でも、どっちみち全部欲しいしなぁ・・・。でも、この後ミーティングでメシも食うし酒も飲むしなぁ・・・現金いるしなぁ・・。でも、残り枚数が各2枚しかないしなぁ・・。で、結局、「禁断のカード」の登場となった。以前カードでレコード、DVDを買っていてとんでもない金額になったことがあり、もうカードでレコード類を買うのは止めようと固く誓ったのに脆くも使用となってしまった。
しかし、カードを使って買っただけの価値はあった。とくに動いているのを見たことがなかったケリー・ブラザーズ、ボビー・パウエルは日本での知名度は低いが、個人的に大好きな人たちだ。また、エタ・ジェイムズとエスターが一緒に歌っているのなんて!ただただありがたい。毎回30分ほどのTV・ショーなのでさっさと歌手が出てきて歌って、はい次の人っていう感じだし、生演奏ではなく「口パク」もあるが、それでもその歌っている姿を見るだけでも私にはありがたい、ありがたい。
このTVショーは1960年代中期にナッシュヴィルで製作、放映されていたもので、司会の白人のおっさん以外出演者はすべて黒人ミュージシャンだ。もちろんビデオ撮りではなく、生の同時放送なので時折音響がドジったり、司会のおっさんが間の悪いところで入ってきたりするし、ダンサーのお嬢ちゃんたちも素人と思えるような踊りっぷりだ(でも、可愛いけど・・)。しかし、そのアナログなノリがまたいいんだなぁ。実は私が高校生の頃、これがほぼリアル・タイムで日本でも一部放映されていて私も見た覚えがあるのだが、その当時ビートルズとかストーンズのファンだった私の記憶にしっかり残っているのはサム&デイヴくらいだ。何故その当時、こんな強烈なフィルムに感動しなかったのだろう?
そして、最近この"THE!!!!BEAT"の4.5.6巻がリリースされているという情報がLEOさんから入り、レコード店に走った。そして今回は迷うことなくカードが出た。禁断のカードでもなんでもなくなってしまい、また地獄を見るかも知れないが、こんなレアな映像を見れるのなら地獄を見ることになっても仕方ない・・と勝手な理屈を考えた。
第4巻ではルイ・ジョーダンが5曲もやってくれているし、ニューオリンズのR&B名物シンガー、クラレンス”フロッグマン”ヘンリー、ラティモア・ブラウンにジョー・サイモン。第5巻にはあまり知られていないが、素晴らしい女性R&Bシンガーのミッティ・コーリアがコテコテに歌い、そして尊敬するルー・ロウルズがジャズ・テイストの渋く粋なブルーズを歌う。「サニー」の大ヒットをもつボビー・ヘブ、そしてソウル・シンガー、アール・ゲインズはボビー・ブランドのヒット"Turn
On Your Lovelights"で完全な教会ノリを聞かせてくれる。そして、まったく知らなかったロッジ・マーティンという太った黒人が歌う"Love
Machine"にはまいった。なかなかのハード・シンギング・タイプで興味があったのでライナーを読んだら、すでに心臓マヒで27才で亡くなっていた。続く第6巻にもこのロッジ・マーティンは出てくるのだが、この巻にはサザン・ソウルの王者オーティス・レディング、強烈にイキまくるソウル・デュオ、サム&デイヴ、"When
A Man Loves A Woman"のパーシー・スレッジ(やっぱり若いときから前歯が隙歯だった)、そして若き日のパティ・ラベルがブルーベルズというグループで出てくる。ここでラベルはかのスタンダード"Over
The Rainbow"を歌っているのだが、ソウル濃度100%のあまりに濃い"Over The Rainbow"を聴かせてくれる。あといつもハイ・テンションのブレディ・キングがたくさん入っているし、ブルーズ派ではリトル・ミルトンも登場する。そうそう、メンフィス・ソウルのドン・ブライアントも現れる。とにかく私にはよだれもののDVDだった。バック・ダンサーのお嬢ちゃんたちのダンスもどんどん上手くなっていくので、この後のリリースも期待したいところだ。ちなみに第6巻のカヴァー・ジャケットはサム&デイヴでした。御覧あれ(Photograph参照)。
|