このデレク・トラックスの新譜はライヴ2枚組。6月に買ってから時折聴いているが、来日公演の時と同じようにそのギターの上手さに呆れかえっている。
5才の時にオールマン・ブラザーズのステージに初めて立ち、現在はオールマンのギタリストとしても活躍しているデレクだが、上手さだけで言えばそのオールマンの亡きデュアンよりスライド・ギターは上手いと思う。ただ、「匂い」は違う。でも、現在最もスライド・ギターの上手いミュージシャンだろう。もう6.7年前にニューオリンズにいる山岸から「ホトケ、絶対好きになるわ」と教えてもらい、アルバムを探して最初に聴いたのが"Out
Of Madness"だった。サン・ハウスの"Preachin' The Blues"や"Death Letter"、ハウリン・ウルフの"FortyFour"などのブルーズのカヴァーに、革新的というほどの新しさはなかったけれど、当時17才ほどのデレクのギターに圧倒された。ドラムとベースの打ち出すリズムもとてもグルーヴィ−で、ミーターズのファンク"Look-Ka
PyPy"なんかを実に軽々とやってしまっているのにも驚いた。しかし、いちばん驚いたのはデレクのオリジナルのインスト・ナンバー"Younk
Funk"だ。ジャズ・ファンク的で、プログレッシィヴなこの曲の演奏を聴いているうちにすごく深いこのバンドの懐を感じた。もちろん、時折香るオールマンの匂いに懐かしい想いもした。
今回のライヴ・アルバム"Live At Georgia Theatre"は、来日公演とほぼ同じメンバー(アルバムにはパーカッションが参加)で、デレク本人も現在のメンバーには満足しているらしい。特にヴォーカルはやっと気に入ったヴォーカリストを探した・・というコメントを読んだ。実はヴォーカルをとらないデレクにとって自分の音楽にフィットするヴォーカリストというのは、彼自身の音楽センスがしっかりしているだけに見つけるのはなかなか難しかっただろうと思う。私もいまのヴォーカリストは大好きだ。まず声がいい。昔の正統派R&Bシンガー(最近のR&Bじゃなくてね。このR&Bという言葉も音楽業界でなんとか統一してもらいたい)、それもちょっとローカルな匂いのタイプでいい感じだ。歌い方も実直で、パワフルで、ギミックなしなところも好みだ。
しかし、デレクはなぜ歌わないんだろう?シャイなのか?あれだけギターで歌えるなら少しは歌えるだろうに。でも、来日公演でも2時間近いステージで彼が喋ったのはメンバー紹介とサンキューだけという愛想なしだった。見た感じも喋るよりギター弾いてる方が好き・・てなタイプだが、でも、山岸潤史みたいにギターも弾き倒すわ、電話でも1時間くらいは余裕で喋り倒すわというギタリストもいる。ちょっと例が悪かったか・・。山岸も格別上手くはないが"Down
HomeBlues"なんかを結構ムード出して歌う。
それより長年の封印を解いて、最近、塩次伸二が"Mojo"や"Reconsider Baby"などを歌うようになっている!「なんでもっと早よ歌わんかったん?!」と言いたくなるが、まあそれなりの年月と悟りが固い封印を解いたのだろう。将来は山岸、塩次に全曲歌ってもらって、私は「ウエストロード」のマネージャーとして客席で酒でも飲みながら、女性を口説きたい。もちろん、ギャラはピンハネですよ、ピンハネ。身内を例に出さなくても、あのエリック・クラプトンも歌いはじめは下手やなぁ・・と思ったが、歳月が経つにつれ歌が上手くなり、最近ではまず「歌手」だと思っている若い人達も多いのだから、デレクにもちょっと歌ってもらいたい。
そして、最初からのメンバーであるベースのTodd SmallieとドラムのYonricoScottは、デレクが縦横無尽にギターを弾くことができる素晴らしいリズム隊だ。もともと安定した、グルーヴィーなリズムを繰り出すふたりだったが、最初のアルバムなどと聴き比べると彼等の音楽的な力量はかなり上がったように思う。また、キーボードのKofi
Burbrigeのサウンド作りもバンドに彩りを増やしているし、彼が吹くフルートの音色も印象的だ。そして、デレクのギターからはブルーズはもちろん、ジャズ、フォンク、ソウル、そしてインド音楽(彼はインド思想に傾倒しているらしい)などが玉手箱のように次から次へと飛び出してくる。音楽のインプロヴィゼーションを楽しむ気持ちのある人なら、この多彩さと深さがたっぷり味わえる2時間、2枚組。
例えば、楽器は違うが、同じようにブルース的要素をもつ人気のスティール・ギター奏者、ロバート・ランドルフと比べると、デレクのバンドもパワフルさでは同じようだが遥かに音楽的要素は多彩だし、アップ&ダウンのある構築の仕方も緻密だ。ランドルフも恐らく多彩な音楽性はもっているのだろうが、ダンサブルであることを意識し過ぎてるように思え、それが平面的でラウドなものしか私には残さない時が多い。一方、デレクたちの出している多面的な音は、聴き手に次々と万華鏡を覗くようにいろんなことをイマジネイションさせてくれる。一体こいつはどのくらい音楽を知っているのだろうか?と驚かされる。最近というより亡きスティーヴィ・レイボーンが現れて以降、ブルーズ関係には(特にギタリストは)パワフルで、ラウドで、ハイパーで・・という若手しか見当たらなくなってきているが、手の内がすぐ見えるだけのパワフルさではおっさんは飽きてしまう。鳴り物入りで登場したジョニー・ラングなんてもう私は飽きてしまった。
それこそ、日本の若い人達にはブルースやるにしてももっとたくさん音楽を聴いて欲しい。デレク・トラックスはどの時代に生まれたとしても、流行に関係ない独自の音楽を創造できる素晴らしいミュージシャンだと思う。こういう音楽にはケツを叩かれる思いがする。キング・カーティスの名曲をアルバム・タイトルにした"SoulSerenade"(Columbia
CK89013)もいいアルバムです。 (04/8/6 記) |