1976年、42才という若さでフレディ・キングは亡くなった。折しも日本は「ブルーズ・ブーム」とやらに湧き、74年には「第1回ブルース・フェスティバル」でロバート・Jr.ロックウッドが来日し、75年の第2回にはバディ・ガイとジュニア・ウエルズ、同年の第3回にはオーティス・ラッシュなどが来日し、ブームの火に油を注いでいった。もしフレディがもう少し長生きしてくれれば、きっと来日してブルーズの大火事になっていたことだろう。
当時アメリカでブルーズ界の3キング(アルバート、B.B.そしてフレディ)のライヴを観た知人はこんな風に3キングを評した。「B.B.は一番安定していて、いつ観に行ってもアベレージの高いプレイが聴ける。アルバートは出来、不出来の差が大きくて、今日最高の演奏をしたと思って次の日も行くと最低だったりする。フレディは常にパワフルで、信じられないくらいすごくテンションの高い演奏をいつもやる。一番強力なのはフレディだ」後年、フレディのライヴ・フィルムをはじめて観た時「常にパワフルでテンションがすごく高い」というその知人の言葉を思い出したものだ。ギターのネックをポキッと折ってしまいそうなほど絞る!揺らす!「ギターを弾いてなかったら、このおっさん、なんか犯罪でもやったんちゃうか」と私は思った。もちろん、歌も常にフル稼動。だから身体が弱い人はフレディのフィルムを観る時は気をつけた方がいい。フィルムを観るだけでも体力が要る。
このアルバム・タイトル通りフレディ・キングをヒーローとしたギタリストは、エリック・クラプトンはじめたくさんいる。そしてブルーズ・ギターを志した者なら一度はがちんこしなければならない、分厚い胸のギタリストがフレディ・キングだ。特に60年代初期の録音を集めたこのフェデラル・レ−ベルのアルバムは彼の原点であり、多くのミュージシャンがコピーし倒したのもこの音源だ。しかし、いまから約45年も前のブルーズでありながら、全く古い感じはしない。それはなぜか?まず、ひとつにはフレディならではのファンキー・テイストが、時代を超えて聴く者をワクワクさせる。いい意味でポップだ。それは特に大ヒットし、トレード・マークともなったインストルメンタル・ナンバーに顕著に表れている。いまやブルーズ・インスト・ナンバーの定番となった"Hide
Away"、そしてマジック・サムもカヴァーした"San-Ho-Zay"また"The Stumble"などには、インスト曲でありながらどこか口ずさみたくなるポップな感覚に溢れている。が、その端々からはいなたいファンキ−なフレイズが飛び出してくる。その微妙な組み合わせがフレディ独特のブルーズを作り上げている。ギター・インストがヒットしたためにギター・プレイがやたらと取り上げられるフレディだが、歌も上手い。ギター同様にパワフルなヴォーカルだが大味にならず細かい表現にもすごく長けている。私はこのアルバムから"Tore
Down"と"Have You Ever Loved A Woman"をカヴァーしているが、今も"If You Believe"や"Take
Care Of Business"を練習している。歌もギターも明らかにB.B.キングの影響を受けてはいるが、歌の豪速球的な男っぽさやファンキーなノリはB.B.にはあまりない感じだ。また、"If
You Believe"や"You've Got To Love Her With A Feelin'"では実に情感のこもった表現も聴かせてくれている。
そして、それをサポートしているバックのリズムにも注目したい。主なバック・サウンドはサックス2本、ピアノ、ベース、ドラムという5人てで作られているが、中でもドラムのフィリップ・ポールのグルーヴ感はシンプルで、強力な躍動感をもっておりいま聴いても古い感じはない。とくにシャッフルは天下一品!ブルーズ・ドラムの素晴らしい教科書のひとつだ。また、名前はわからないがこの素晴らしい演奏をシャ−プな音で録音したエンジニアたちにも拍手を送りたい。このサウンドがあってフレディのこのアルバムは一層質の高いものになっている。そして、このアルバムはフレディの歌とギターもバックの演奏も、そしてサウンドも何ひとつ色褪せていないのが驚きであり、名盤と呼ぶにふさわしい。本当に上質なブルーズ・アルバムだ。シェルターやRSOレーベルのアルバムもいいが、フレディを聴くならまずこれだ!
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