MY NOTES > My Feeling For The Blues > No.45




45-Blues100撰-その11「Lonnie Johnson with Elmer Snowden/blues&ballads」
(Bluesville/Original Blues Classics)1960年録音(photograph参照
 

Lonnie Johnson (g&vo)
Elmer Snowden (g)
Wendell Marshall(b)

曲目
1.Haunted House
2.Memories Of You
3.Blues For Chris
4.I Found A Dream
5.St. Louis Blues
6.I'll Get Along Somehow
7.Savoy Blues
8.Back Water Blues
9.Elmer's Blues
10.Jelly Roll Baker

別れを惜しんでいるのか、それとも再会を喜び合っているのか、ふたりの男が互いにギターを持ち路上でハグしている。うしろは雑木林のようになっていてどこか郊外のように思える。ふたりともジャケットを着ていて、靴はきれいに磨いてある。微笑んでいる顔が見えている方がロニー・ジョンソンで、帽子を被って顔が見えない方がエルマー・スノウデンだろう。私はこのアルバムを「ジャケ買い」した。昔、レコ−ド屋で何を買うでもなくパラパラと中古盤を見ている時、このアルバム・ジャケットで手が止まった。当時、ロニー・ジョンソンという名前は頭のどこかに記憶されていたが、聴いたことはなかった。いっしょにプレイしているエルマー・スノウデンのことも、なんとなく名前を聞いたことがあるなぁ・・くらいだった。でも、このジャケットが私を呼んでいた。何故かすごくこのジャケットが気に入ってしまったのだ。
ロニー・ジョンソンは1900年、ニューオリンズの生まれだ。幼い頃からギターだけでなくヴァイオリン、バンジョー、マンドリンと様々な楽器を習得していた彼は、1925年にオーケー・レコードのブルーズ・コンテストで優勝して初めてのレコーディングの機会を得て、以後全盛期の30、40年代にコロンビア、デッカ、ブルーバードといったレーベルにたくさんの録音を残した。彼のレコ−ディングは多岐に渡っており、ひとりでブルーズの弾き語りをしているものからデューク・エリントンやルイ・アームストロングといったジャズマンのアルバムに参加したものまである。とくに20年代後半にやはりギターの名手エディ・ラングとデュオで残した録音はいま聴いても、呆気にとられるほど素晴らしい。40年代終りにはキング・レコードから出した "Tomorrow Night"や"Pleasing You (As Long as I Live)" "So Tired" などがヒットしてR&Bチャートにも顔を出した。しかし、その後しばらく彼は第一線から退き、消息不明のような状態になってしまった。仕事がなくなったからなのか、何か精神的に音楽を退くような出来事があったのか・・それはわからない。とにかく、59年頃このアルバムのプロデューサーであるクリス・アルバートソンがエルマー・スノウデンからロニーの消息を聞き訪ねた時、ロニーはフィラデルフィアのホテルの雑役夫として働いていた。こんなにギターの上手い、センスのある人でもずっと順風満帆といかないのが音楽の世界だ。つまり、このアルバムはそのロニーの記念すべきカムバック・アルバム。その後、ロニーは63年、有名な”アメリカン・フォーク・ブルーズ・フェスティバル”にも参加し、ヨーロッパへツアー行ったりして再び脚光を浴びるようになった。しかし、1970年に前年の交通事故が元で亡くなってしまった。
ロニー・ジョンソンはロバート・ジョンソン、T.ボ−ン・ウォーカー、B.B.キングといったブルーズマンだけでなく、チャ−リ−・クリスチャンやジャンゴ・ラインハルトといったジャズ・ギタリストにも影響を与えた偉大なギター・マスターのひとりだ。1920、30年代という時代に彼のギター奏法は明らかに群を抜いて秀でていた。その洗練されたコード・ワーク、そして多くのギタリストたちを魅了したテクニック的にも発想的にも先端を行った単弦奏法及び流麗なソロ。つまり彼はブルーズ、ジャズを越えたギターの偉大な先達だった。
このアルバムにも当然のように彼の様々な音楽の要素があふれている。ブルーズだけ演奏しているアルバムではない。ジャズ風味もラグ風味もあり、カントリー・ブルーズの香りもある。歌は軽く歌っている。演奏はギター2本とベースだけ。だからサウンドは涼しい。夏でも聴ける。彼女とカクテルを飲みながらでもいいし、フラれてひとり酔っぱらって夜中聴くのにもいい(これは私が体験済みだ)。共演しているエルマー・スノウデンのことも少し書いておくと、彼はロニーと同じ1900年の生まれで、10代でピアニスト、作曲家としても有名なユービー・ブレイクのバンドで活動を始め、19才でデューク・エリントン楽団に入っている。以降、チック・ウェブ、カウント・ベイシーなど様々な楽団、グループで活動している。このアルバムではギターを弾いているが、彼が最初に名を馳せたのはバンジョー奏者としてだったし、サックスもプレイできる。つまり、彼もロニーと同じ職人肌のミュージシャンなのだ。
このアルバムがすごく売れたのでまったく同じジャケットの色違いで第2弾の"Blues, Ballads, and Jumpin' Jazz, Vol. 2"というのも同じレーベル、Bluesville/Original Blues Classicsから出されている。そっちもいい。また、20年代、30年代の若き日のロニーの素晴らしさを知りたい方には"Steppin' On The Blues" (Legacy Recordings)をお薦めする。(名手エディ・ラングとのデュオ曲も収録されています)それにしても、いいジャケットだ。私はさんざん考えた末、これは別れのシーンだと決めつけた。互いに別々の街に出かける別れの挨拶をしているところだと思う。「痛風に気をつけて、しばらく会えないけど元気でな」「オマエこそ糖尿に気をつけろよ」「また、やろうぜ」「うん」・・・痛風か糖尿かわかりませんが、そんな勝手な会話を私は想像する。同時代をミュ−ジシャンとして生きてきた初老の男の友情をこの素晴らしい1枚の写真から強く感じます。



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