MY NOTES > My Feeling For The Blues > No.47




47-Blues100撰-その13「Guitar Slim/The Things That I Used To Do」
(Specialty Records)1953-55年録音(photograph参照
 

音楽には演奏する人間の生き方や精神や性格といったものが自然と音楽に出てしまう。とくにブルーズのようなシンプルで、ストレートな音楽には隠しようもなくそれが出てくる。まあ逆にそういうものが感じられないブルーズは私にとってはつまらない代物でしかない。
このアルバムを最後まで聴くと、このギター・スリムというブルーズマンが普通の人間の数倍の早さで生き、明日のことなど考えず大酒を飲み常に数人の女をはべらして派手な生活を送り、33才という若さであの世に行ってしまったという話にも納得がいく。そして、この名盤にはそういう彼の人生と精神が実に濃ぉ〜い音で録音されている。話はやや逸れるが、私は昔からどこかこういう豪放磊落な男に憧れる傾向があり、かなりメチャクチャなこともやってきているのだが、音楽には何故か反映されずにここまで来ている。メチャがまだ足りないのかとも思うが、メチャやるのもなかなかパワーが要るのだ。まあ、いまでも明日のことを考えずに酒を飲むことはあるが、常に数人の女をはべらすことはない。はべらしたい気持ちは多々あるのだが、打ち上げで私の周りにはべっているのは数人の中年男たちだ。そこに華やかさはない。あきらめと泥酔があるだけだ。
話を戻そう。スリムはステージでも派手でグリーンや黄色、赤といった原色のスーツに身を包み、髪の色もそのスーツと同じ色に染めていたという。1950年代中頃だから、そんな色に髪を染める男の黒人シンガーはまずいなかっただろう。つまり、50年代「ひとりファンカデリック」だ。しかもギターはこのアルバムでも音が歪んでいるのがわかるようにとにかく大音量。そして、T.ボーン・ウォーカーもやっていた「ギター背中弾き」「ギター股割り弾き」などの人の目を釘づけにするアクションとトリッキーな技でルイジアナ周辺の大スターだった。私もやっているギターを弾きながら客席突入という技はこのギター・スリムあたりから始まっている。しかし、私のシールドは30メートルだが、記録によるとスリムのは軽く100メートル以上あったそうだ。くやしい。
その豪快な生き方同様に彼の音楽も豪快だ。小ざかしい技はなく、パワフルにグイグイと押してくる。腰を低くした典型的な押し相撲的演奏だ。歌い方は気持ちを吐き出すかのようにアグレッシヴだが、とてもソウルフルでその力強さの奥に愁いが含まれている。それは1曲目の"The Things That I Used To Do"やバラード的な"Sufferin'Mind"にはっきり表れている。とくに54年にR&Bチャート1位の"The Things That I Used To Do"は、スリムの看板曲であり現在も歌い継がれるブルーズ・スタンダードだ。ゆったりとしたホーンのリフをバックに「オマエとはもうやってられんわ」という決別の歌が力強く実直に歌われている。シンプルで簡単に歌えそうだが、なかなか奥深い難しい曲だ。もうひとつこの曲で気になるのは、ギターのフレーズが3度の音を半音下げたブルーノートの音を使わず、3度をそのまま弾いていることだ。ブルーズをある程度聴き慣れていると、最初この音が「あれ?」とやけに気になる。しかし、この音もこの曲を強力に印象づけているひとつで、誰がこの曲をカヴァーしても必ずみんなこの音を弾く。つまり、この音を使ったフレイズもこの曲の大切な要素なのだ。
ちなみにこの曲のピアノとアレンジは若き日のレイ・チャールズだが、この曲だけでなくホーン・セクションのアレンジがこのアルバムのとても重要なポイントになっていることも聴き進むうたにわかってくる。
また、"Stand By Me"(ベン・E・キングのあの有名曲とは同名異曲)や"Guitar Slim"のようなアップ・テンポの曲でのスピード感は、彼の短かった人生の疾走とオーバー・ラップする。そして、50年代半ばという時代を考えれば"A Letter To My Girlfriend"のようなリズム&ブルーズ調の曲が出てくるのは当然だが、ギター・ソロはとにかく「いなたい」。それが実にギター・スリム的なのだ。これでいいのだ。"Well,I Done Got Over It"や"Think It Over"のようなゴスペル・ルーツの曲もギター・スリムの曲の大きな特徴で、一度聴くと耳に残る。
このアルバムはできれば大きな音で聴いてもらいたい。そして、バーボンでも飲んで「ちょっと酔ったかな」という状態になっていただければ、ギター・スリムのブルーズがあなたに乗り移る設定になる。そして、両腕にきれいな女性がいればもう申し分ないが、いなくてもどんどん飲んで踊れば、50年代ニューオリンズのクラブ「デュー・ドロップス・イン」のギタースリムのライブにタイム・スリップできる。では、行ってらっしゃい!追記-この"The Things That I Used To Do"のオリジナル・アルバムは現在発売されていませんが、"Sufferin' Mind"というタイトルで曲数も多く、しかも1,689円という格安で発売されています。オリジナル・アルバムの収録曲はもちろんすべて入ってます。



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