MY NOTES > My Feeling For The Blues > No.49




49-嗚呼、サン・ハウス!!
「コレクターズ・ドリーム〜究極の戦前レア盤コレクション」
Yazoo(P-Vine Records PCD-2632)(photograph参照
 

中学生の頃、水晶や雲母、花崗岩が入った石の標本を親に買ってもらったことがあった。そして、何故かその標本に強く触発された私は、近所の小高い山や河原の石を拾ってきては箱に入れて自分のコレクションを作り始めた。たぶん他人から見ればどうってことないただの石ころだったと思うが、形の変った石や面白い模様のついた石を拾ってきてはひとり悦に入っていた。しかし、やはり他人からの評価が欲しかったのか、一度仲のいい友達を家に連れてきて「これなんかおもろいやろ?」と得意気に見せたのだが、友達は何も感激せず「キャッチボールしよや」と言っただけだった。それに傷ついたわけではないが、以後私がその「ストーン・コレクション」(そんな名前をつけるほどのものでもないが)を他人に見せることはなかった。そして、私自身の熱も1年も経たないうちに冷めてしまった。それからもマッチ箱や映画のパンフレットを集めかけたことはあるが、どれもコレクションと呼ぶほど成就したものはない。
何かを収集するには継続するパワーが要る。それが私にはない。現在、黒人音楽関係を中心にかなりの数のレコードとCDが私の部屋にあるが、これも世のコレクターと呼ばれる方々から見れば取るに足らないものだ。コレクターと呼ばれる人たちは情報収集のアンテナを常に張っていて、いまならネット・オークションなども頻繁に見るのだろうが、そんなことも私はしない。気まぐれに中古レコード店を訪ねて安いレコードを漁るぐらいだ。高値のレア盤などはほとんど買ったことがない。しかし、世の中にいるクレイジーなコレクターの方々の力によって今回、「デルタ・ブルースの巨人」サン・ハウスの幻と言われていたSP盤が見つかりその2曲がこのアルバムに収録されることとなった。
このアルバムのタイトルが「コレクターズ・ドリーム〜究極の戦前レア盤コレクション 」だ。なんせ「蒐集家の夢」だ。「究極」だ。「レア盤」だ。CD2枚組で¥3,780だ。しかし、私が聴きたい曲はサン・ハウスの2曲しかない。実はこのアルバムはブルーズだけ収録してあるわけではなく約半分は、私がそんなに好きでもないカントリーだ。サン・ハウスは聴きたいが、たった2曲に¥3,780を払うか・・レコード店でしばし私は悩んだ。¥3,780あれば廉価盤CDなら2枚、DVDなら1枚買える。飲み屋でボトル1本入れられる。う〜ん。普段酔っぱらってアホなことに金を遣っているくせにここでう〜んと考え込む自分が情けない。しかし、これを買った友達にダビングしてもらうという手もあるな・・・どうしょう・・と優柔不断なA型の嫌な一面がでてきた。
すると、そこに亡き父が言っていた言葉が浮かんできた-「1行でも自分のためになることが書いてあるなら、その本はどんなに高くても買うべきだ」と。そうだ!サン・ハウスはたった2曲でも私に必要なものなんだ!ここでケチってはいけない。すかさず私はこの変なジャケ写(photo参照)のアルバムを持ってカウンターに向った。
チリチリというノイズ(1930年の録音だから当然ノイズは入っている)の中からサン・ハウスの76年前のブルーズが大音響でいま私の部屋に流れている。圧巻の2曲だ。その「ミシシッピ・カウンティ・ファーム・ブルース」と「クラークスデイル・モーン」の音の向こうから、暑い風に揺れるミシシッピーデルタの風景とその中でボトルネックを弾き、唸るように歌うサン・ハウスの姿が見えてくる。どっしりと重いこの2曲に久しぶりに黒く鉛のように光るリアルな"BLUES"を聞かされた思いがする。グルーヴ感あふれるギターも素晴らしいが、彼のブルーズがぎっしりと詰まった歌声にまた「出直して来い!」と言われているような気がする。¥3,780で迷うことなんかなかった。これは私にとても必要な音楽だった。
サン・ハウスは元々聖なるゴスペルを歌っており世俗的なブルーズを忌み嫌っていたという、しかしある日ボトル・ネック・ギターを使ったブルーズのサウンドに惹かれてブルーズマンとなってしまった。しかし、ブルーズマンとなってからもずっと自分の心の中にある「聖」と「俗」に悩み続け、葛藤を繰り返し歌い続けた人だ。そう簡単に「聖」か「俗」かと分けられないすごく生身な感じのサン・ハウスに私はずっと惹かれ続けている。仲間のチャ−リ−・パットンや年下のロバート・ジョンソン、そしてウィリ−・ブラウンが次々と亡くなり、ブルーズを歌っていると「死」が襲ってくるのではないか・・と恐れていたという話もある。実際、彼の強力にパワフルな歌とギターを聴いていると、いつ押し寄せてくるか分からない「死」をなんとか撥ねのけようとしているようにも聴こえる。本当に胸がつまるほど素晴らしいブルーズを彼は残してくれた。
要するにこのアルバムは1920年代から30年代のアメリカの田舎の音楽、つまり黒人のものも白人のものも両方の格別レアなものを収録したものだ。カントリーの曲も「伝説の」と言われるプレイヤーたちが演奏している珍しいものとのことだ。ブルーズではトミー・ジョンソンも素晴らしくよかった。このサン・ハウスの2曲はパラマウント・レコードに残された4枚のSP盤のうちのもう見つからないといわれていた1枚で、他の3枚はP-Vineレコードからすでにリリースされている「伝説のデルタ・ブルース・セッション」というアルバムに収録されているので、そちらも是非聴いてみてください。
それからこの「コレクターズ・ドリーム〜究極の戦前レア盤コレクション」のライナーノーツもすごく面白い。普通ライナーというのは中身の音楽について書いてあるものだが、このライナーにはほとんど音楽について書いてなく、世の中にいる狂気とも思える蒐集癖をもったコレクターたちのことが書いてある。例えばコレクターと呼ばれる人たちは「蒐集することをやめてくれ」と言った女房とは、何の迷いもなくすぐ離婚するらしい・・・。これからもこういう貴重な音源を求めて、コレクターの方々には離婚をもろともせずにがんばってもらいたい。ロバ−ト・ジョンソンの映像なんか見つけてくれたらうれしいのだけど。それにしても私の石の標本はどこへ行ったのだろうか?今度帰省したらおかんに聞いてみよう。



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