Irma Thomas/After The Rain
淡々と静かに歌われるアーマの歌声にじわじわと感動させられる優れたアルバム。降り続く雨に濡れるベランダの草花をぼんやり見ながら、このアルバムを何度も聴いたこの梅雨時だった。去年、東急文化村のコンサート"History
Of The Blues"をプロデュースした時に呼んだコーリー・ハリスが2曲参加しており、いいギターを弾いている。スライド・ギターのサニー・ランドレスもいい。アーマは60年代からずっと活躍し、ヒット曲もたくさん持つキャリアのある立派なシンガーで「クィーン・オブ・ニューオリンズソウル」という称号に間違いはない。そのアーマがいよいよ円熟の境地に入ったと感じさせるアルバムだ。私の大好きなアーサー・アレキサンダーの"In
The Middle Of It All"からラストのスティービー・ワンダーの"Shelter In The Rain"まで、取り立てて強くハリケーン・カトリーナの痛手や復興を歌っているわけではないが、静かにプロテストしているアーマの気持ちが伝わってくる。
Elvis Costello&Allen Toussaint/The River In Reverse
コステロ・ファンの方々には本当に申し訳ないが、以前からコステロの歌声が私は好きになれない。今回久しぶりに聴いたがやっぱりダメだった。声が好きになれないのはつらい。これはアレン・トゥーサンとのコラボ・アルバムで、コステロがアレンをリスペクトしている姿にも共感を持てるが、この曲はコステロではなくアレンに歌ってもらいたかったと思うものが多かった。アレン・トゥーサンのピアノは前面に出ていなくても素晴らしく存在感がある。
John Fogerty/The Long Road Home(The Ultimate John Fogerty・Creedence Collection)
ジョン・フォガティの、「クリーデンス・クリア・ウォーター」時代からのベストのようなコンピレーション・アルバム。前出のコステロと反対に同じ白人ロック・シンガーでも、このジョン・フォガティは格別好きなシンガーだ。変化球のないストレートな歌いぶりはクリーデンス時代からずっと変っていないが、パワフルだが乱暴ではない細かいニュアンスも表現できる彼の歌は本当に素晴らしい。また、ソング・ライターとしての才能にも改めて脱帽。"Born
On The Bayou""Bad Moon Rising""Fortunate Son""Down
On The Corner""Have You Ever Seen The Rain"そして"Proud Mary"などロック史に残る名曲の数々だ。
塩次伸二/京都4029
京都在住の伸チャン(塩次伸二g)が最近活動しているメンバー(田中晴之g,山田晴三b堀尾哲二dr)で気負わずにさっと録音した1枚。1曲目から飛ばしているブギでフェイド・インしてくる。こんな早いテンポだと私など2コーラスも弾けず終ってしまうが、さすがブルーズギター・マスター、次から次へとフレイズが出てくる。すべての曲を伸チャンが作曲している。歌はないがどの曲も口ずさめるメロディックなメロディで伸チャンらしさが出ている。ギターはもうブルーズ、ファンク、ジャズなどがミクスチャーされたいつもの素晴らしい塩次印ギターが縦横無尽に駆け巡っている。私個人としては4曲目のファンク・ロック"WEST70"が抜群に好きだ。そして、どの曲も音色がいい!このバンド、是非近所に来た時には聴きに行ってください。ちなみに4029とは(しおつぐ)です。はい。
Ronnie Spector/The Last Of The Rock Stars
もうロニー・スペクターと言ってもわからない人が多いだろうな・・・。あの60年代人気ガールズ・グループの、あの大ヒット"Be My Baby"の「ロネッツ」のリード・ヴォーカルと言えばわかる人もいるだろう。まず「ロネッツ」時代のあのキュートな声がほとんど変りなくこのアルバムに収められていることを言わなければならない。
60年代、どれだけたくさんの人たちが彼女の声に魅了されたことだろう。今回、このアルバムに参加しているストーンズのキース・リチャーズもそうだし、亡きジョン・レノン、ブルース・スプリングスティーン、パティ・スミスなど枚挙にいとまがない。
そして、たくさんあったガールズ・グループでも個人的にスターの輝きを最ももっていたのは、このロニーだろう。映画で言えばブリジッド・バルドーのような小悪魔的なルックスとその砂糖菓子のようなスウィートな声に私もずっとダウンされ続けてきた。今回のアルバムではアイク&ティナ・ターナーの"Work
Out Fine"をキースとデュエットしている他、懐かしいフランキー・ライモンの"Girl From The Ghetto"を取り上げている。また、彼女自身もプロデュースに積極的に係わり充実したアルバムになっているが、何を歌ってもロニー節になるところはさすがだ。まあ、私は彼女のSweet
Voiceを聴いているだけでも充分ですが・・・・。昔と変らぬルックスでタバコをふかすジャケ写を見て、おつき合いしたいような・・・でも、ちと怖いような・・・覚悟が要ります。
Papa Grows Funk/Live At The Leaf
朋友、山岸潤史がニューオリンズで参加しているファンクバンド「パパ・グロウズ・ファンク」のライヴ・アルバムが少し前にリリースされた。彼等がホーム・グラウンドとしているニューオリンズのクラブ「メイプル・リーフ」での4月のライヴをパックしたものだ。相変わらずの音の熱風がステージを吹き荒れているド・ファンク・アルバム。夏の海辺、山のキャンプ場のパーティ・タイムにビール片手にこのアルバムをガンガン流してはいかかがでしょう。「こんなん聴いたら、余計に汗が出るやろ」という意見もあると思いますが、夏は汗をばんばんかいてビール飲んで踊ってください。そこから熱〜い恋が生まれかも・・。なお裏ジャケを見るともっともっと暑くなります。バンマス、キーボード、ジョン・グロウの陶酔した表情がたまりません。ダイエットせえよ〜、ジョン!
山岸は以前とは違ったギター・ソロのアプローチがいくつかあり、「おっさん!チキン食べてるだけやないやん。勉強してるやん!」と思いました。ハリケーンの災害以降、仕事を失っている当地のミュージシャンも多い中、この「パパ・グロ」は頻繁にツアーにも出かけヨーロッパにも行ってがんばっています。もちろん、今年の「ニューオリンズ・ジャズ・ヘリテイジ・コンサート」にも参加している。また山岸個人はワイルド・マグノリアスにも参加しているが、「ゲイトマウス・ブラウン・トリビュート」のライブにもキーボードのジョー・クラウンからお声がかかり「オ−キ−・ド−キ−・ストンプ」や「カルドルニア」などでギターを弾いたのが嬉しかったようだ。また未定だが、アレン・トゥーサン・トリビュ−ト・アルバムへの参加オファーも来ているようでいつもながら精力的に活躍している山岸です。
まあ、月に1.2回は電話しているのでまた情報を書きます。ああ、今年の「ニューオリンズ・ジャズ・ヘリテイジ・コンサート」で特に評判だったのは、ポール・サイモンだそうです。アレン・トゥーサンとアーマ・トーマスが飛び入りして、バックもスティーヴ・ガッドを中心とした素晴らしい面々で良かったそうです。
Elmore James/I Need You
Elmo James/The Sky Is Crying
通称「エルモア本」(伝エルモア・ジェイムズ/ギターに削られた命)の出版に合わせてリリースされたファイア/スフィア・レ−ベル時代のエルモアのアルバム2枚。文句などあるはずがない正統な、純血のブルーズ・アルバムです。とにかく2枚とも名盤!エルモアはブルーム調というその強烈なスライド・ギターで話題に登る人だが、私はいつもこの人の歌の素晴らしさにヤラれている。表面だけ聴いているとラフでストロングな印象なのだが、よく聴いてもらいたい。実に細やかなヴォ−カル表現があり、それがわざとらしくなく心からダイレクトに出たエモーショナルなものであることがわかってもらえると思う。どの曲も素晴らしいが中でも「I
Need You」のタイトル曲、"I Need You"と"Something Inside Of Me"、アルバム「The
Sky Is Crying」の方ならやはりタイトル曲の"The Sky Is Crying"、オールマン・ブラザーズもカヴァ−した"I
Done Somebody Wrong"そして「俺の血まみれの心・・・」と歌う"My Bleeding Heart"などはブルーズの名歌唱の中に入るソウルフルなものだ。
もちろん、ダンサブルなロッキン・ブルーズの"Shake Your Money Maker"、"I Can't Stop Lovin'
You"も文句なし!また、インストの"Bobby's Rock"の強力なグルーヴも気持ちを高揚させてくれる。
そして、エルモアの18番であるブルーム調の"Baby Please Set A Date"、"Dust My Broom"、"Standing
At The Crossroad"などは音量を最大限に上げて(ヘッドホーンは絶対ダメ!)、頭からエルモア・ブルーズを浴びてびしょ濡れになってください。いまは梅雨時なんて言ってますが、私の部屋はエルモアの大洪水ですよ!溺れそうですよ!
最後に"The Sky Is Crying"の方の名義がElmoreではなくElmoになっているけど、エルモアは通称エルモですから親しみを込めてそういう記載にしたのでしよう。間違いではありませんよ、念のため。
Lightnin' Hopkins/Lightnin'&The Blues
もう言い訳なしでこれは絶対!買ってください。1954年、ヘラルドというレーベルに所属していた時のライトニンのシングル26曲を収めた名盤の中の名盤!ライトニンはアコースティックものの弾き語りもいいが、これはエレキ!エレキですよ。しかもバンドつきです。軽快なブギ・ナンバーから深夜のテキサスの荒野に放り出されたようなディープ・スローまでライトニンさんの魅力が満載されたアルバムです。私は10回くらい「カッコイイ!ライトニン!」とひとり叫びました。これからも聴くたびに叫ぶと思います。ジャケットもオリジナル仕様の紙ジャケで、またデザインがいい。
ライトニン(カミナリ)がどっかーんと空から落ちているところです。「あなたのハートにブルーズの落雷!」なんてコピー考えましたが、どうでしょう?発売元のP-ヴァインさん。しかし、ひとついつも思うことだが、ライトニンのアルバムは音が古い感じがしないのは何故か?このアルバムもそうだが、ファイアー・レーベルの"Mojo
Hand"もすごく新しい感じがする。それはMojo(魔術)が効いているということか・・・・。
1曲目から淡々とリズムを繰り出すドラム・ベースをバックに鋭いギターと、ディ−プな歌いっぷりで聴く者をぶちのめしてくれる。しかし、いい声やなぁ。「う〜ん」と唸っているだけでブルーズやからね。また、アップ・テンポのグルーヴ感が素晴らしい。野外パーティでライトニンのギター1本でみんなが踊っている光景がフィルムに残ってますが、下手なリズム隊なら要らないくらいこのおっさんのグルーヴはすごい!たったひとつこのアルバムの難点は、シングル用の録音なので一曲の演奏時間が3分を満たないで終ってしまうというところ。ブギでノッて聴いている時などは「オイ、オイ!もう終りかよ!」と突っ込みを入れたくなるが、そういう時はずっとリピ−トにしてください。そして、音量をできるだけ大きくして踊り狂ってください。
とにかく実に自由にブルーズを歌い、弾くライトニンの気持ちに引っ張られてこっちも精神が解放されていく最高のアルバムです。そして、年を経るごとに新たな感動を得られるアルバムでもあります。
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