昔、この本が異なる出版社から出されていたことを私は知っていたが、巡り会う機会もなくほとんど忘れかけていた。それが同じブルース・インターアクションズの「ブルース&ソウル・レコーズ誌」の新刊紹介のページでこの本が発売されることを知って心待ちにしていた。
この本はいわゆる音楽本ではない。1959年に白人である著者のハワード・グリフィンが皮膚の色を変えるための薬を飲み、紫外線によって肌を焼き、時には黒いクリームを顔や肌に塗り、黒人になりすましアメリカ社会の中で「一体、黒人であるということはどういうことなのか」「黒人であるためにどういう目に会うのか」を実際に体験した彼の日記を中心に構成された本だ。彼は人種差別の実体を調べるために自分が受けるであろう恐怖を覚悟し、またその調査結果を発表したあとの迫害も考慮した上で肌の色を変えるという行為に向うのだが、やはりその差別の実情には改めて驚かされる。そして、まず著者の決断と勇気に胸を打たれる。時代は50年代末から60年代にかけてという黒人公民権運動が激化していく頃で、やはり外側からでは分からない差別の実体とそれによって受ける大きな精神的苦痛がとても生々しく書かれている。本の内容を細かく紹介するのは野暮だと思うのでここでは書かないが、まるで推理小説やホラー小説を読むように鼓動が高鳴りページをめくり続けた箇所がいくつもあった。それほどアメリカにおける人種差別のすさまじさと恐怖を感じさせられる内容だった。
また、白人による黒人の差別だけでなく黒人による黒人への差別、そして白人による白人への差別という根深さもあり、そこにまた他の人種も交わるという差別構造の複雑さに現在も根本的に解決されないこの問題の深刻さが浮きぼりにされている。
私もブルーズというアフリカン・アメリカン固有の音楽に魅せられてから、その音楽の中に表れている人種差別の事柄にずっと考えさせられているし、黒人、白人両方の知人友人とその問題を語りあったこともある。そして、いつもその途中で考えさせられるのは、私自身に差別の意識は本当にないのか・・ということだ。今回もこの本を読み続けている間、何度もそこに思いを巡らした。日本人として、あらゆる民族に対して、そして日本人に対して自分は本当にそういう意識はないのか?もし、あるとしたらそれは自分の心のどこから生まれてくるものなのか?そういうことを深く考えさせられる本であり、より一層黒人音楽への理解を深めることにもなった本だった。
久しぶりに手にした深く読みごたえのある、またこれからも何度も読み返すだろう素晴らしい一冊。みなさん、是非御一読を!
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