ジョン・フォガティはすでに60才を超えている。でも、このDVDを観て彼の年令を感じる人はいないだろう。昨年(2005年)9月ロスでのコンサートを収録したこのDVDのジョン・フォガティの歌声は、"Creedence
Clearwater Revival"(以下CCR)で73年頃初来日した時と気味が悪いほど変っていない。その初来日公演を私は大阪で観たのだが、レコードと変らないノー・ギミックな直球勝負の演奏に興奮したことをいまもよく憶えている。その当時の鋼のように鍛えられ、光のように真直ぐに届く歌声を彼はいまも持続し、聴く者を素直にハイ・テンションにしてくれるところも昔とまったく変っていない。そして、スピードが命のR&Rのグルーヴを彼は20才のミュージシャンのように繰り出してくる。そのパワフルさにはただただ驚かされる。
これと言った飾付けのない整然としたステージの上、ギタリスト2人、キーボード1人、そしてドラムとベースという基本的なロックバンドの布陣で何も奇異を衒うことなく、ブルーズとカントリーが融合した正統なR&Rを彼は淡々と歌い続けていく。ジョン・フォガティには悪いが、ステージ衣装やヘア−・スタイル、ステージ上のアクションなどは御世辞にもかっこいいとは言えない。そういうことにはまるで無頓着な人なのかも知れない。本当にアメリカのどこにでもいるダンガリーのシャツを着てシーンズを穿いているような白人男だ。もしストリートですれ違ったとしてもこの敬愛するミュージシャンに私は気づかないかも知れない。しかし、この普通の男が60年代末から70年代にかけてヒット曲を次々にチャートに送り込んだ栄光のCCRのリーダーであり、素晴らしいシンガーであり、優れたソング・ライターなのだ。そう、そのヒット曲だ。本人もステージで「僕はたくさん曲を作ったからね」と言っているが、たくさん作っただけでなく約4年間のCCRでの活動中にビルボード・チャートのベスト10に入った曲が11曲、14曲がトップ40に入っている。
まず痛快に飛ばすR&R"Travelin' Band"からステージは始まる。以後、私が好きなヒット曲だけ挙げても"Green
River"、"Who'll Stop The Rain"、"Born The Bayou"(これはハリケーンの被害にあったニューオリンズに捧げられていた)そして「雨を見たかい」の邦題で有名な"Have
You Ever Seen The Rain"、ブルージーな"Tombstone Shadow"、ジョン・リ−・フッカーのブギをベースにしたであろう"Keep
On Chooglin'"、ロックン・ロールの見本のような"Sweet Hitch Hiker"、ポップな"Hey
Tonight"、客席でたくさん人たちが歌っている"Down On The Corner"そして、大学でアマチュア時代に私も歌っていた反戦のロック"Fortunate
Son"、「無気味な月が昇る」と歌う不思議な"Bad Moon Rising"そして、アンコールで大合唱となる"Proud
Mary"・・とこれだけある。他の曲も加えると全26曲、約90分間ジョン・フォガティは歌いっぱなし、ギター弾きっぱなしだ。力を抜いて歌う曲がほとんどなく、パワフルに歌うのが彼の芸風だからこれはかなりキツイだろうと思って観ていたが、アンコールまで1曲目とまったく変らず平気な顔をして歌っている。まだ1時間くらいは演奏出来そうな余力を残した感じで終った。そして、忘れてはいけないのは「この国はまた同じ過ちを繰り返している」とMCして新しい曲"Deja
Vu(All Over Agin)"を歌うが、そこに彼の昔と変らない反戦の精神がいまもあることだ。
この人は子供の頃から大好きだった音楽をいまも変らない気持ちでただただストレートに歌い、演奏しているのだろう。そして、彼が作ったヒット曲のどれもが彼のその気持ちと同じようにストレートだ。どの曲にも、どの歌にも彼の決して冷めることのない熱があふれている。
最後、アンコールが終った後、ジョン・フォガティはさよならと言うと駆け足でステージを去っていく。まるで次の公演の街へ急ぐように・・・。もうジョン・フォガティやCCRなんて知らない人の方が多いと思うけど、もし本物のロックンロールっていうものが何なのか知りたかったら、このフイルムを観たらいいと思う。
最後に、ジョン・フォガティはジョン・レノン、ポール・マッカートニー、スティーヴ・ウィンウッド、ヴァン・モリソン、そしてエリック・バードンと並んで私がずっと尊敬し続けている白人ロック・シンガーの中のひとりだ。
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