MY NOTES > My Feeling For The Blues > No.62




62-たくさんの愛と尊敬にあふれたトリビュート・アルバム"A Tribute To Fats Domino/Goin' Home"
(Vanguard 225/26-2)(photograph参照
 

これは本当に多彩なメンバーによるファッツ・ドミノへの素晴らしいトリビュート・アルバムだ。2枚組になっているのはファッツのいままでの多大な音楽的功績を考えれば当然だろう。そして、こんなにもいろんなミュージシャンに影響を与えてきたのかと改めてファッツの偉大さを知った。そんな偉大なファッツ・ドミノを知らない方々は、とりあえずEMIから出ている"Fats Domino/Greatest Hits (Walking To New Orleans)"でも聴いてみてください(それにしても現在ファッツの日本盤がほとんどレコード店にないのはどういことや!日本のレコード会社、しっかりしてくれ!)。

Disc1はジョン・レノンの75年の名アルバム"Rock'n'Roll"に収録されている"Ain't That A Shame"から始まる。"Rock'n' Roll"はあさっり作ったカヴァー・アルバムのように聴こえるが、改めてその巧みなアレンジに感心させられた。素晴らしいアルバムだ。
7曲目には同じビートルズのニューオリンズ・ミュージック大好き男、ポール・マッカートニーがニューオリンズの重鎮アレン・トゥーサンのプロデュースとピアノで"I Want Walk You Home"を歌っている。
ポールが少しファッツの唱法をマネして歌っていて笑みが浮かぶ。
2曲目で"I'm Walkin'"を歌っているトム・ペティもかなりファッツの歌い方を意識しているように思うが・・・。
他の仕事をしながら聴いていたのにやたら気になって仕事を中断したのが、ダシ・マハールとニューオリンズ・ソシアル・クラブの"My Girl Josephine"だった。レイモンド・ウェバーのドラム、ジョージ・ポーターのベース、レオ・ノセンテリのギターそしてピアノのヘンリー・バトラーの繰り出すニューオリンズ・ビートはパーフェクトだ!仕事してる場合やないと踊り始めた。
レニー・クラビッツがリ・バース・ブラスバンドにフレッド・ウェズリー、メイシオ・パーカー、ピーウィー・エリスのJBホーン組が加わってやっている"Whole Lotta Lovin'"は完全にJBファンク調のアレンジでほんとにカッコいい。レニーのギターもいい!私の心の恋人(?)ボニー・レイットが歌っている"I'm In Love Again"は、イギリス生まれなのに「生まれた場所を間違えた」とニューオリンズに住みついたジョン・クリアリーのアレンジとプロデュースで見事なブルーズ・ロックになっている。私もカヴァーしているのでボニーがこの曲を選んでくれたことを勝手に喜んでいる「生まれた場所を間違えた」私だ。
ランディ・ニューマンが参加していて「おっ!」と思ったが、考えてみればファッツの影響があって当然の人だろう。その"Blue Monday"は原曲のイメージを大切に淡々と歌われている。
Disc1の最後に収録されているコリーヌ・ベイリー・レイという女性シンガーはあまり知らないのだが、私好みの声をしている。今年5月のニューオリンズ、ティピティーナのライヴということで"One Night(Of Sin)を歌っている。彼女のソロ・アルバムを探してみようと思っている。

Disc2はニール・ヤングの心のこもった"Walkin' To New Orleans"で始まる。ストリングスも入ったアレンジがなかなかいい。ところで"Walkin' To New Orleans"を聴くと、私はなぜか夕暮れの田舎道を遊び疲れて歩いて帰った子供の頃を想い出す。
つづいては・・おっ!ロバート・プラントさんじゃあーりませんか。クレジットを見ないとツェッペリンのあの声じゃないのでプラントさんとはわかりませんが「フツー」の感じがなかなかいいです。もう昔のような腹出しルックはしてませんよね、プラントさん。
そして、ひとりでピアノとギターを入れて名作"My Blue Heaven"を少しジャージーに歌っているのはノラ・ジョーンズ。かって私がやっていたバンド"Blue Heaven"はもちろんこの曲から名前をいただきました。永遠の名作です。
6曲目オル・ダラの"When I See You"はクールにキメていてかっこいい。この人も声がGood!です。
ベン・ハーパーがスカタライツをバックに歌った"Be My Guest"とトゥーツ&メイタルズの"Let The Four Winds Blow"を聴いて、かってファッツがジャマイカのミュージシャンにすごい影響を与えたことを想い出した。心躍るこの2曲、体も踊るしかないでしょう。
他にもドクター・ジョン、アート・ネヴィル、アーマ・トーマス、ビッグチーフ・モンクなど地元ニューオリンズ組も参加していて、それぞれがリスペクトを抱いて愛するファッツの曲を真摯にやっている。
最後はニューオリンズ名物でもあり最古のバンドでもあるプリザベーション・ホール・ジャズバンドにヴォーカルのテレサ・アンダーソンとウルフマン・ワシントンが加わって「聖者が街にやってくる」だ。

いまから35年ほど前、来日したファッツ・ドミノのコンサートを観た。大きな会館に悲しいくらいお客さんが少なかった。でも、ファッツは明るい笑顔で登場し次々とヒット曲を歌い続けてくれた。そして、最後には彼のショーの売りであるグランド・ピアノを一人で腹と太ももで押しながら弾いてステージ・サイドに行くというエンターテイメントを見せてくれた。その時にはお客さんが少なかったことなどすっかり忘れてスタンディング・オベーションをしていた私だった。本当に幸せないいコンサートだった。
そして、今日、自分がいまも生きていてこういうファッツの音楽を耳にすることができる幸せを心いっぱい感じている。そんな秋のブルーへヴン(青空)な午後でした。
そして、ハリケーン・カトリーヌで死にそうな目に遭ったファッツはもう80才になろうとするが、いまもニューオリンズであの笑顔でピアノを弾いて歌っているという。ニューオリンズでもう一度聴きたいので長生きしてください、ファッツ。


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