このアルバムはギター・インストなのだけど収録されている全ての曲が歌っている。ギターが歌っている。
去年（2007）の暮れ鶴間の菩南座でKOTEZとライヴをやった時、店の中に気持ちのいい音のギターが流れていた。メロディもグルーヴも素晴らしいのだが、とにかくまず「音」がいいのだ。それでマスターに「このギター誰？」と訊いたところ「知らないの？ケンちゃんだよ。ケンちゃんの新譜だよ」と教えられた。ケンちゃん（井上憲一）新譜出してたのか・・・・と、そのまますぐ鶴間のタワーレコードに探しに行ったがない。年が明けて、やっぱりどうしても欲しくて新宿タワー、ユニオン・レコード、渋谷タワーと回ったがどこにもない。そうこうするうちに「blues.the-butcher-590213」のツアーが始まり、そうだ！ツアマネ橋川君なら知ってるだろうと思い、「ねえ、ケンちゃんの新譜知ってる？」と訊くと「ああ、知ってますよ。持ってますよ」と言い、その場からケンちゃんに電話をかけてくれた。久しぶりに話をしたら、開口一番ケンちゃんから亡き浅野君へのお悔やみの言葉をいただいた。そう、一昨年浅野君とふたりで下田にあるケンちゃんの店「パラダイス・カフェ」で演奏させてもらったんだ。すぐ近くに海があってこじんまりしたムードのいいホテルもあってお店もゆったりしていて「今度は夏に来よう」と浅野君と言ってたんだが・・。ケンちゃんにも何曲か入ってもらって・・・そう、"Small Town Talk"も三人でやったんだ。そして、"Crying Time"を最後に歌ったら客席にいたアメリカ人の老夫婦が一緒に口ずさんでいて、終わってから「すごく良かったよ。Crying Timeは大好きな曲なんだ。まさかここで聴けるとはね」と言ってくれた。・・・・・・・それで「ケンちゃんの新譜どうしたら手に入るの？」と訊くと「買ってくれるの」というから「当たり前じゃない。ずっと探してるんだけどなくて・・」と言うとHPからネットで買えるというので早速申し込んだという次第。
「GUITAR OASIS/Keni Inoue」は今年に入ってから私がいちばん聴いているアルバムだ。「癒し」なんていう陳腐な言葉じゃ言い表せないもっと広い精神を感じさせ、心にオアシスを作ってくれるアルバムだ。風景が見えて、Keni Inoueという人が見えるアルバムだ。胸に懐かしさが溢れてきたり、遠い想い出に耽ってしまったり、忙しい心が知らぬ間にテンポを落としていたり、映画音楽を想定させたり、歌詞をつけたくなったり・・・心にいろんな想いをゆっくり起こさせてくれるアルバムだ。こういうアルバムは都会のビルの中のスタジオでは作れない（ハワイ録音）。すべてこれは下田〜ハワイ〜ジャマイカで日々を送るケンちゃんのいまの生活から混じりものなしに生まれてきた曲だ。
下田に行った時、浅野君と買ったケンちゃんが奥さんのキャシーさんと作った前のアルバム"Voyage to Paradise"も素晴らしいアルバムだったが、今度のアルバムもひとつひとつの音が大切に弾かれたセンスのいいアルバムだ。
初めて彼に会ったのは73年頃。まだ「夕焼け楽団」の「サンセット・ギャング」もリリースされていなかった。私は「ウエストロード」で時折一緒になる野外コンサートで聴く彼のギターの音はメロウで聴く者の心を溶かしてしまうワン＆オンリーなものだった。あれから随分長い長い月日が流れたけど、彼のギターはいまも私の心をトロトロにしてしまう。初ソロ・アルバム『レイジー・べイビー・ケニー』から31年（！）も経っての素晴らしいこのセカンド・ソロをたくさんの人に聴いてもらいたい。　購入されたい方はこちらを訪ねてみてください→http://www.keniinoue.com/
最後に新しい"Player"誌（2008、3月号）にケンちゃんのインタビューが出ている。そこにはギタリストを志す者にとって、いやミュージシャンにとってとてもいい言葉が溢れているから是非読んでみてください。その中のひとつー「僕はヴォーカルに寄り添うように合わせるのが好きなんですよ」