昨年(2005年)12月からブルーズの偉人、ジミー・リードがそのほとんどの作品を残した"VEE JAY"レコード時代のアルバムが、P-Vine
Recordsから日本盤、紙ジャケ・シリーズで一挙に発売になった。ちなみに"VEE JAY"のジョン・リー・フッカーも大放出され、私はアナログ・レコードでほとんど持っているのに「やっぱCDでも欲しいな」とシリーズをほとんど買ってしまった。はい、見境のないブルーズ馬鹿です。しかし、このVEE
JAYというレーベルは黒人音楽にとっては重要な会社で、50年代中頃から60年代中頃のブルーズ、リズム&ブルーズ、ドゥワップ、コ−ラス・グループ、ゴスペルなどの優れた作品があるまさにザックザックの宝の山。どのくらいすごいレーベルだったかというひとつの話だが、かのイギリスのビートルズの最初のアメリカでのシングル"Please
Please Me"はこのVEE JAYからリリースされている。英EMIが最初にリリースを依頼した米キャピトルが発売を渋ったので、VEEJAYがやることになったのだが、この一例でVEE
JAYがどれだけ当時の業界で大きな存在であり信頼されるレコード会社だったかがわかると思う。ジミ−・リードに話を戻すと、そのVEE JAYの中でもトップ・クラスの売れっ子だったがこのリード。何しろチャート・インした曲が18曲、トップテンに入ったのが6曲と、当時ブルーズの人気者だったマディ・ウォーターズやB.B.キングなどを遥かにしのぐセールスを記録している。ヒットが多かっただけでなく、その作品がいまもブルーズのスタンダードとして歌い継がれているのはやはりその内容が素晴らしく、時代を超えた魅力があるからだ。そんなリードの魅力を探ってみよう。
「ジミー・リードのポップス性」
何故ジミ−・リードはそんなに売れたのか?そして、何故彼のブルーズはいまも生き残りスタンダ−ドとして歌い継がれているのか?いくつも理由はあるだろうが、一言で言えば彼のブルーズにあるポップ性だろう。まず、メロディが明確で覚えやすく、歌詞もシンプルだ。特に売れた"You
Don't Have To Go"や"Baby What You Want Me To Do","Bright Lights
Big City"、"Honest I Do"なんかは、風呂場でついつい歌ってしまう鼻歌感覚のブルーズだ。ブルーズの中にはメロディ・ラインが難しく覚えにくいものも多々ある。例えば私はサニーボーイ・ウィリアムスン(ライス・ミラー)というブルーズマンが大好きなのだが、彼のブルーズをほとんど歌ったことがない。歌おうにも歌えないと言った方が正しい。何故なら彼のブルーズのメロディ・ラインがとても個性的で複雑で、しっかりメロディを掴むのが難しい。独特のビブラートがかかっているし、時に喋っているように歌うこともある。つまり歌ってみてもサニー・ボーイのようなムードが出ない。もちろん、ジミ−・リードのブルーズのムードも唯一無比だが、メロディは覚えやすくバックの演奏も明解だ。そして歌い方も独特の味はあるがシンプルだ。つまりポップス性は他のブルーズマンにないほどはっきりとある。だから彼のブルーズは白人のポップ・チャートにも登場することになったのだだろう。そして多くがブルーズ愛唱歌として残っている。
「ジミー・リードの絶妙ビート」
ジミー・リードのシャッフル・ビートは絶妙のグルーヴをもっている。とくにミディアムとスローの間くらいのテンポの曲はいまで言うところの「ユルイ」ノリで、体中が骨抜きにされるような快感がある。アップのシャッフルものも基本的にユルイが決してダルくはない。スキップするように軽快!だ。シャッフルに関しては、同時代の同じシカゴのマディ・ウォーターズなどが在籍した「チェス・レコ−ド」よりもR&B寄りのシャッフルだが、これはVEE
JAY独自のビートだ。"Big Boss Man"のような2ビートものも素晴らしく、明確な強いビートが聴く者の腰を自然と浮かせる。つまりダンス・ミュージックとしても素晴らしいブルーズであるところもポピュラリティを得た一因だろう。ブルーズにしろ何にしろ黒人音楽は踊れなければダメだ。これだけグルーヴがいいのはバック・ミュージシャンの腕もある。もちろんリード自身のギターのリズムも抜群だが、彼にギターを教えたという裏方の名人エディ・テイラーのギターがグルーヴの大きな要。基本的には低音で刻むウォーキング・ベースのギターとコードで"ウチャ、ウチャ"と裏のビート入れるもうひとつのギターの組み合わせがもう「あうんの呼吸」「染之助&染太郎」とも言うべきコンビネーションとなっている。ドラムはシンプル&タイトの極致でスネアーの落しどころだけでも絶品だ。すべての楽器はシンプルきわまりないプレイをしているが、その組み合わせの妙から素晴らしいグルーヴが生まれている。ブルーズ・バンドを始める人たちにはこのジミ−・リードのカヴァーをやることを私はよく勧めるのだが、高度な演奏技術を使わないで、でも高度なグルーヴを作る訓練をするのにこのジミ−・リードのアルバムの数々は理想的な教科書と言える。シャッフルのエッセンスがここにある。
「ジミ−・リードのハーモニカ」
リードのハーモニカもまたギターと同じでシンプルでワン・パターンだが、高音部からソロに突入する時のつっこみの鋭さは「ユルイ」彼のブルーズに「七味」のような刺激を与えている。ファースト・ポジションで吹かれるそのフレイズはハープ・ソロというより歌のメロディに呼応したもので、ブリッジ的なメロディのはっきりした間奏だ。しかし、これがまたなんとも耳に残る、残る、残る。名曲"Honest
I Do"の牧歌的な間奏ハープなどは完全に曲の一部となっており、あれ以外の吹き方はできない。つまり、あの通りやらないと"Honest
I Do"という曲ではない。
「ジミ−・リードの歌」
ジミ−・リードは大酒飲みで後年はアル中だった人だが、その酒が彼の歌に強い影響を与えていると私は思う。恐らくレコーディングの時も飲んでいたんだろうが、このタラ〜ッとした「ヌケた」歌い方はしょうにもなかなかできるものではない。これはごきげんな酔っぱらいのノリだ。完全に酒で出来上がっているのもあるかも知れない。口元がゆるくなっているのがモロにわかる曲もある。でも、このやたら気張らない、もう少しでズルッとなってしまうほどのユルユル歌唱がまたいいんだなぁ・・・・。B.B.キングやボビ−・ブランドのようにちょっと聴いただけで「うまいなぁ!歌」という代物でもないし、バディ・ガイのようなハイ・テンション売りでもなく、T.ボ−ン・ウォーカーのようにお洒落な歌でもない。近所の酒の大好きなおっさんが小料理屋のカウンターで歌っているようなこのムード。カラオケで歌っているのではなく、酔っぱらってひとりで気持ちよくなって歌っている感じだ。B.B.のように歌のテクがあるとか、ブランドのような歌の幅があるタイプではない。でも、このユルく、ヌケた、ズルッとしたダウン・ホームな歌が聴く者を幸せにする。「あんたなぁ、もう飲まんとそろそろ帰りや。もう体ふらついてるやん。嫁はんに怒られるで・・はよ帰らんと・・」と小料理屋の女将に言われながらも、「アホ!嫁が怖くて酒飲めるかい・・なぁ、もういっぱいだけ飲ませてや・・・」とせがみながら、ひとり歌っている酔っぱらいの風景が浮かんでくる。嫁はんと言えばジミー・リードがすぐ歌詞を忘れるので録音最中に横で次の歌詞を囁くリードの嫁はんの声が聞こえるテイクもある。それをOKテイクにしたVEE
JAYレコードは偉い!そういう寛容さが日本のレコード製作現場にも欲しい・・まあ、無理だろうけど。
とにかく、この偉大な酔いどれブルーズマンの歌はこれからもずっと聴き継がれ、歌い継がれていくことだろう。さあ、書くのはこのへんで終りにして一杯飲みながらジミー・リードを聴くとしょう。最後にジャケ写真をいくつか紹介するので御覧ください(photograph参照)。
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